錦織を抜いて...。ビッグ4の牙城に迫るテニス新世代に「旧ソ連」の影 (2ページ目)

  • 内田暁●取材・文 text by Uchida Akatsuki
  • photo by AFLO

 インディアンウェルズ優勝者のデル・ポトロは、「新世代の台頭によりテニスの性質は変わったか?」と問われたとき、「ものすごく変わった」と即答した。「彼らはすさまじいスピードのサーブを打ち、僕よりも強烈にボールを打ち抜く」と、29歳のマスターズ新王者は苦笑いをこぼす。

 果たして彼らのショットが、錦織圭が「世界一」と絶賛するデル・ポトロのフォアより強烈かどうかはわからない。だが、その強打自慢が目を剥くほどに、若手たちがより高いフィジカルとパワーを男子テニス界に持ち込んだのは間違いないだろう。

 さらに、彼らニューウェーブに共通して見られる、もうひとつの特徴がある。それは、彼らの多くが元選手やテニスコーチを親に持ち、幼少期からそれこそフォークを扱うようにテニスラケットを操ってきたことだ。

 すぐに思いつくところで名を挙げても、ズベレフ、シャポバロフ、テイラー・フリッツ(アメリカ/20歳)、アンドレイ・ルブレフ(ロシア/20歳)、そしてステファノス・チチパス(ギリシャ/19歳)は親が元テニス選手。また興味深いのは、ズベレフにシャポバロフ、ルブレフ、チチパスらは、いずれも母親が旧ソビエトの選手だったという点だ。

 これら旧ソ連にルーツを持つ若手の台頭は、昨夏ごろからテニス界でしばしば交わされてきた議題である。当の選手たちは「何か理由はあると思う?」と問われるたびに困ったように首をかしげてきたが、彼らの言葉を紡(つむ)いでいくと、そこにはひとつの答えがおぼろげながら浮かび上がってくる。

 たとえばズベレフとシャポバロフの母親は、いずれも1980年代のトップジュニアで、対戦経験もある間柄。旧ソ連圏の女子選手がテニス界を席巻するのは2000年代に入ってからだが、その礎(いしずえ)となるプログラムは、すでに1980年代から築かれていたのだろう。5歳から母親の手ほどきを受けてきたシャポバロフは、母親の教育メソッドを「昔ながらの"ソビエトユニオン式ドリル"」と形容する。

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