泣かなくなった土居美咲。初のベスト8をかけて因縁のケルバー戦へ

  • 内田暁●取材・文 text by Uchida Akatsuki  photo by AFLO

 土居美咲は試合で負けたあと、目をはらすほどに泣くのだと、彼女を知る人たちからよく聞いた。

「たしかに以前は、負けたらとりあえず泣きはらす......みたいな時期もありました」

 土居本人も、周囲のそのような声を否定しなかった。

ベスト16進出を果たして笑顔を見せる土居美咲ベスト16進出を果たして笑顔を見せる土居美咲 ならば、2年前のウインブルドン2回戦でエカテリーナ・マカロワ(ロシア)に敗れた後も、彼女はひとしきり泣きはらしたのだろうか?

「何かを変えたい。今までとは別の側面から、試合に生かせる何かを加えたい......」

 そう切望した土居は、この2年前のウインブルドンの直後から、メンタルコーチに師事するようになる。何人かの候補者を経た末に、最終的にはフェンシング日本代表やプロゴルファーの指導経験を持つ、メンタルコーチの安宮(やすみや)仁美に白羽の矢を立てた。

「自信が欲しい、精神的な粘り強さが欲しい」

 安宮との最初のミーティングで、土居は、そう訴えていたという。当時の土居は、プロ6年目の23歳。彼女は20歳のときにウインブルドンで3回戦まで勝ち上がり、テニス関係者たちの注視と期待を集めていた。その後もツアー大会で幾度もベスト4に入るなど、上位勢を破る力も示していた。

 しかし、ランキング50位前後の選手を破ったかと思えば、200位台の選手に敗れることもある。トップ選手に善戦しながら、勝負を分ける重要なポイントを逃す悔しい敗戦も重ねてきた。サウスポーから繰り出すフォアの強打に代表される、高いポテンシャルは疑いの余地がない。だがどうしても、自身ランキング100位前後の殻を打ち破ることもできない。

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