慶大に大勝。プライドをかけ、成長する明大ラグビーの新たなスタイルとは
11月3日、ラグビー関東大学対抗戦。慶大戦で活躍した明大主将・飯沼蓮(中央)『MEIJI PRIDE』、これが今年度の明大ラグビー部のスローガンである。3季ぶりの大学日本一をめざす明大が苦手な慶大に46-17で完勝し、開幕5連勝とした。そのひたむきな紫紺のジャージにプライドが垣間見えた。
リベンジだ。昨年の関東大学対抗戦で、明大は終了間際の劇的PGで慶大に敗れた。単調に攻め続け、相手の猛タックルに屈した。この日は違った。研究と対策。キックも絡め、近場の突破とワイド展開と攻めが多様だった。
試合後の記者会見。新型コロナの収束の方向に伴い、オンラインではなく、ようやく対面実施となった。昨年の慶大戦でも先発していたスクラムハーフ(SH)、飯沼蓮主将の満足感が伝わってくる。体を張ったのだろう、左膝にはアイシングの氷の入ったビニール袋。
「昨年の借りを返すという意味で、チャレンジャーとして臨もうと(チーム内で)話をしていました。今日は"メイジはキックもできるんだぞ"という、新たに成長できた試合だったと思います。大きい勝利です」
「文化の日」の11月3日。駒沢オリンピック公園陸上競技場。秋晴れの空の下、9400人の観客が押し掛けた。キックオフ直後、SH飯沼は絶妙のキックを蹴り返し、エリアを稼いだ。マイボールのラインアウトから外に運んで、ラックの近場を突き、最後はスタンドオフ(SO)伊藤耕太郎がポスト右に飛び込んだ。
この日の明大は攻めにメリハリが効いていた。相手自慢のタックルのポイントを絞らせない。フォワード(FW)がタテを突くと思えば、バックス(BK)がパスでつなぐ。自在だ。後半序盤、連続展開のあと、SH飯沼がラックサイドを細かいステップで突いて、ドンピシャのタイミングで走り込んできたウイング(WTB)石田吉平がディフェンスの隙間に切れ込んだ。ボールをもらう前の石田のスピードの"タメ"は天性だろう。
石田はこの日、ひとり4トライと活躍した。「トライをしたくなるのでボールをもらいにいっている」と振り返った。
「そういう気持ちを大事にしている。今後も、チャンスがあったら、どんどん顔を出して、相手を打ち負かすプレーができたらいいなと思います」
石田は167センチ、75キロと小柄ながら強じんな足腰と抜群の瞬間スピードを持つ。7人制ラグビー日本代表として先の東京五輪にも出場した。7人制と15人制の違いの難しさを聞かれると、石田は苦笑しながら机の下で右手の指を折って数えた。
「こちら(15人制)にきて3カ月ちょっとくらいなんですけど、少しくらいは順応できているのかなと思います」
この日のゲームテーマは「ハード」だった。ボールを持ったらハードヒット、ボールを持たない選手もハードワークをしようとの意図だった。だからだろう、どの選手も倒れてはすぐに起き上がる。次のポジショニングに移る。タックルする。これは厳しいフィットネス練習と意識のたまものだろう。
明大の新たなスタイルに関して言えば、もちろん神鳥裕之新監督の指導によるところが大きい。学生の自主性を大事にし、『凡事徹底』をよく口にする。その意味を問えば、昨季までリコー(ブラックラムズ)を率いていた47歳はこう、説明してくれた。
「"当たり前のことを誰よりも徹底することは強いよ"という言葉です。ラグビーにおいてはボールを持っていない選手だったり、生活においてはラグビーをやっていない時間帯の取り組みだったりが大事なんです」
いわば規律である。勤勉さ、ひたむきさである。「おおらかさ」を伝統とする明大には合わないのでは、と冗談を言えば、「時代もありますから」と笑われた。
「確かにそういう文化はメイジにはある。でも、学生スポーツのなかでは、しっかり人間的に成長していかないと上のレベルにはいけません」
これまでの対抗戦の試合ぶりをみると、帝京大が頭ひとつ抜け、早大、明大が追う展開か。だが大学ラグビーにおいて、これからの成長度合いは測り知れない。明大は20日の次戦で同じく全勝の帝京大と対戦する。帝京大もまた、日常生活の規律が厳しいまじめなチームである。ラグビーにもスキがない。
ポイントはタックルの精度、スピード展開もあろうが、何よりスクラムやブレイクダウンでのフィジカルバトルは必至だろう。飯沼主将は言葉に力を込めた。マスクが揺れた。
「我慢比べになると思う」
プライドを胸に、新たなスタイルを構築する明大。勝負は、準備から、私生活から、始まることになる。