早大が天理大の想定外の強さに脱帽「関東では味わえないエナジーを感じた」 (2ページ目)

  • 松瀬 学●文 text by Matsuse Manabu
  • 齋藤龍太郎●写真 photo by Saito Ryutaro

 もう一人のトンガからの留学生、CTBシオサイア・フィフィタを軸としての鋭いアタックディレクション(方向)に早大のディフェンス網が破綻する。接点で圧力を受けるから、タックルも受ける形になった。

 反撃をかけるはずの後半開始直後、早大はゴール前ピンチのマイボールのスクラムをあおられ、インゴールにこぼれたボールを天理大に押さえられた。これは痛かった。

 半端ではない相手圧力にハンドリングミスも続発する。強みだったラインアウトでも、スローイングミス、連係ミスを重ねた。悪循環をたどる。早大のボールポゼッション(保持率)はわずか20数%。これでは勝てない。

 早大は関東とは違う、関西の雄ならではの結束パワーと気迫の発散に圧倒された。小林はこう、続けた。

「試合中、関東で試合をする中では味わうことができない相手のエナジーを感じました。想像を超えるエネルギッシュなプレーであったり、コミュニケーションコールであったり、プレッシャーを感じました」

 昨年の決勝戦では、早大は明大に勝って、この国立競技場で大学日本一の時にしか歌えない『荒ぶる』を大声で合唱した。

 それから1年。ゲームを作る黄金ハーフ団(スクラムハーフとスタンドオフ)など主軸が抜けた上、新型コロナウイルスによる活動自粛期間もあって、チーム作りは遅れた。もちろん、自粛期間はどのチームも同じだから、言い訳にはならない。天理大との練習試合を予定していた夏合宿も中止となった。

 ハーフ団が変わったチームにとって、試合形式の実践機会がないことはチームに不安をもたらせた。今季、初めて実施された対面による記者会見。相良南海夫監督は「天理大学が本当にすばらしいラグビーをしたと思います」と勝者を讃えた後、こう続けた。正直だ。

「どこも一緒なんですが、いろんなトライ&エラーをしながら、春、夏と引き出しを増やして成長していくようなチームが、まあ、それほど経験ができなかったので、実は非常に不安でした...」

 結局、開幕が1カ月ほど遅れた関東大学対抗戦に入ってから、公式戦をしながらチームの成長を促すしかなかった。どこかに王者ゆえの慢心もあっただろう。だが、早明戦(昨年12月6日)に大敗し、選手の心持ちが変化した。やっとで挑戦心と覚悟が生まれた。

 それでも、天理大を凌駕するほどのエナジーはつくれなかった。その土台となるスキル、パワーで劣っていたからである。1年生スターのCTB伊藤大祐は顔をゆがめた。

「今シーズン、自分の力のなさに気がつきました。よく"心技体"と言いますが、マインドの部分でも天理大に負けていました。心の部分はスキルがないと出てこない。そういった意味では完敗でした」

 主将のナンバー8、丸尾崇真には覚悟があった。この決勝戦で競技の第一線から離れようと考えていたからだ。卒業後は海外留学を目指すと会見で打ち明けた。どんな1年だったのか? そう聞けば、こう言った。

「コロナで苦しいと思ったことはなかったですね。正直、こういう中でラグビーができるだけで幸せでした」

 自分のラグビー人生とは。

「つらいこともありましたし、うれしいこともありました。優勝がかなわず、競技から離れるというのは、心残りというか、やりきれなさはあります。それでも、この経験があったから、前に進めたんだと言えるような人生を歩みたいと思います」

 勝負事だ。勝者がいれば、敗者が必ず、いる。国立競技場からチームバスで約30分。早大ラグビー部全員が、早大キャンパスの校舎2階の大教室に移動した。

 優勝すれば、ここで国立競技場では歌うことを許可されなかった『荒ぶる』を皆で歌う計画だった。もちろん、歌はない。落胆と静寂。相良監督は、こういった趣旨の言葉を部員に贈った。滋味がにじむ。

「失敗や敗戦から学ぶことは価値がある。今日はみんな、悔しかっただろうけれど、4年生はそれを次の人生につなげてほしいし、3年生以下は、本当に悔しかったんだったら、来年、また決勝に戻ってこられるように頑張ろう。もちろん、悔しさだけではダメだ。悔しさを凌駕する努力をしない限り、自分らは強くなれないと思うよ」

 この悔恨と屈辱を、苦悩と鍛錬の先の『荒ぶる』にどう結ぶのか。創部102年。早大の1年後の勝負は、もう始まっている。

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