日本代表がイングランドをぶちかます。
完敗するも新たな歴史を築いた

  • 松瀬学●文 text by Matsuse Manabu
  • 齋藤龍太郎●写真 photo by Saito Ryutaro

 戦術として、相手の切り返しを避けるため、キックを減らし、ボールをパスでつないでいくプランだった。もうひとつの試合のスローガンが『ジャパン・スマート』だった。相手のスペースをみつけ、"かしこく"との意である。前半のボール保持率は、日本の「69%」と高い数字を残した。

 前半は基点であるスクラム、ラインアウトが安定していたこともある。相手のフッカー(HO)がシンビン(10分間の一時退場)となって数的優位に立った時間帯の前半22分、ゴール前のマイボールスクラムからのサインプレーで、SH田中がフラットパスをCTB中村亮土に通し、そのままインゴールに飛び込んだ。ゴールも決まり、10-7となった。

 このスクラムを組む直前、24歳のナンバー8姫野和樹がスパイクで足場を何度も固めていた。ヒット勝負、8人一体の意識が高かったことの証左である。

 中村は「血がたぎるというか、ワクワク感がすごかった」と振り返った。「このプレッシャーのあるスタジアムでしっかりしたプレーできたのがよかったと思います。それが一番の収穫です」

 その9分後、日本はボールを右に回し、ウィング(WTB)山田章仁が切れ込んで、外にうまくスペースをつくり、タックルを受けながらも外のリーチにパス。リーチが鬼の形相で4人を弾き飛ばして、右隅に躍り込んだ。みごとなトライである。実は2日前に持参したバリカンでいつもより短めに髪の毛をカット。気持ちも入ったのだろう、神がかり的な暴れっぷりだった。経験値ゆえか、リーチも田中も山田も福岡堅樹も大舞台でより力を発揮する。

 惜しかったのは前半の終盤、敵陣のチャンスをつかみながら、スタンドオフ(SO)田村優がパスに反応できなかったことである。連係ミスか。いわゆるジェイミー・ジョセフヘッドコーチ(HC)がよく口にする「ソフト―モーメント(集中力が欠けてしまう瞬間)」である。

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