パリオリンピック卓球女子団体で銀 早田ひなは何を思いながら仲間の戦いを見ていたのか (3ページ目)
「(試合をしていた選手がコートサイドに)帰ってきた時に何を伝えればいいのか、いつも考えながら見ています。東京五輪のリザーブで(試合を見守る)いい経験をさせてもらったので。この人にとって何が必要なのか、何を言ったら変われそうか。真剣に考えながら、試合を見ている感じで。だから試合している選手と、私もうしろで戦っている感覚で見ていました」
実際、彼女は他の誰よりも試合に没入していた。得点が決まると、右腕を突き上げ、膝をバンバンと叩いた。集中して卓球を見ることは、自分のプレーにも跳ね返るのだろう。試合を戦ったに近い。その経験は積み重ねると膨大になる。
彼女は卓球を心から楽しんでいる。それゆえ、集中力も尋常ではない。"好き"の総量が破格なのだ。
「(東京五輪後の)3年間、日本代表のなかで一番努力していた、と言いきれるくらい、自分を追い込んでやってきました。おかげで銅メダルをつかめて、3人で銀メダルも取ることができて、間違いじゃなかったと思います。でも、自分よりも努力した人が銀、金を取っているので、今度は金メダルを持ち帰れるように、さらに自分を追い込んで」
そして早田は、最後にこう続けている。
「好きな卓球ができるのは、当たり前じゃない、と思っています。そこを感謝し、4年後のロス(五輪)に向け、突っ走っていきたいです。このタイミングで腕をケガするとは思わなかったですけど、これがあったから人の暖かさや思いを感じました。自分ではなく、誰かのために戦いたい、と再確認できて、人として成長させてくれたオリンピックだったなって思います」
プロフィール
小宮良之 (こみやよしゆき)
スポーツライター。1972年生まれ、横浜出身。大学卒業後にバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)、『アンチ・ドロップアウト』(集英社)など。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。
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