バスケ女子日本代表の未来を背負う19歳・田中こころの頼もしさと無邪気さ 「アジアトップPG」への第一歩 (2ページ目)
【ゲインズHCとの出会いで変わったPGの概念】
田中は高校の大先輩に当たる渡嘉敷(左)らベテランにも物怖じしない photo by Kaz Nagatsuka
通常はSG(シューティングガード)を担うのが基本の田中は、ゲインズHCの代表チームではPG(ポイントガード)としてコートに立つことが主である。ボールを素早く前に進めることや高い得点力を期待されてのことだ。田中はゲインズHCの志向するバスケットボールを体現する存在であり、多少大仰に言えば同HCの「申し子」という感じがしなくもない。ゲインズHCは田中にはまだまだ大きな成長の余白があるものの、「教えようのない彼女なりの技術と特性」があると評している。
「彼女にはアジアでもトップのPGのひとりになれるようにしてあげたいと伝えています」
自身もNBAなどで司令塔としてプレーをしていたゲインズHCは、そのように話している。速いペースでプレーをすることが同氏の強調することのひとつである中で、6月中旬の中国遠征の2試合目において日本はそれができず、大差で敗れた。同氏はその背景には「その試合ではココ(田中)をあまり器用しなかった」ことを挙げている。このことからも田中がチームにおいて主要な役割を担っていることが垣間見える。
田中自身もゲインズHCと出会ったことを「概念が変わった」として、意義を見出している。
「PGの役割ってみんなにパスをしたりするものだと思っていたんですけど、コーリーのバスケットに出会ってからは、難しいポジションではあるんですけど、何でもしていいポジションでもあると伝えられて、PGの概念が変わりました。自分はずっとSGとして高校時代はやっていて(所属のENEOSでも同様)、PGになってギャップがあるかなと思っていましたが、コーリーのバスケットではそんなことはなく、自由にやらせてもらっています」
こう語った田中。「アジアのトップPGのひとり」になることなど露ほども考えたことがなかったというが、「期待に応えないといけない」という気持ちを強くもしている。彼女の成長は、日本代表の進歩に直結するといっても過言ではあるまい。
中国遠征はいうまでもなく、日本にとっての完全なる敵地だったと選手たちは述べている。しかし田中は、スタンドからの地元・中国に対しての歓声を「途中からは私たちの応援をしているんじゃないかって錯覚するくらいには思っていました」と、無邪気さと豪胆さを感じさせるようにそう語った。
アジアカップも中国が舞台となるが、それについても田中は屈託がなかった。
「好きかもしれないですね。自分が活躍して中国のベンチが黙って、シーンとなる感じが。急にお葬式みたいになるのが好きですよね。うっふっふ」
女子日本代表チームのこれからを担っていく若き司令塔・田中こころは、頼もしさと無邪気さの混在した司令塔だ。
著者プロフィール
永塚和志 (ながつか・かずし)
スポーツライター。前英字紙ジャパンタイムズスポーツ記者。
Bリーグ、男女日本代表を主にカバーし、2006年世界選手権、 2019W杯等国際大会、また米NCAAトーナメントも取材。 他競技ではWBCやNFLスーパーボウル等の国際大会の取材経験 もある。著書に「''近代フットボールの父'' チャック・ミルズが紡いだ糸」(ベースボール・マガジン社) があり、東京五輪で日本女子バスケ代表を銀メダルに導いたトム・ ホーバスHC著「ウイニングメンタリティー コーチングとは信じること」、川崎ブレイブサンダース・ 篠山竜青選手 著「日々、努力。」(ともにベースボール・マガジン社) 等の取材構成にも関わっている。
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