NBA伝説の名選手:ティム・ダンカン 堅実なプレーで「スパーズ王朝」の柱であり続けた史上最高のパワーフォワード (2ページ目)

  • 秋山裕之●文 text by Akiyama Hiroyuki

【派手ではないが「勝者」としての絶対的な存在】

 バスケットボールの基本が完璧に備わっていた男は、"ビッグ・ファンダメンタル"と評され、ポストプレーをフックショットやフィンガーロール、時にはダンクで締めくくり、ディフェンスではマッチアップ相手を封じるだけでなく、一切無駄のない動きで絶妙なカバーへ入るなど攻守両面でスパーズ王朝を支えてきた。

 ダンカンのシグネチャームーブと言えば、やはりバンクショット。ゴールに正対したシーンやポストプレーで高い打点からバックボードに当てて加点するショットは地味ながら効果抜群で、相手へ確実にダメージを与えた。

「どの角度からでも決めきれる使い手は、そう多くない。だからこそ、彼のサイズと高い位置から繰り出すあのバンクショットが極めて特別なものになったんだ」と指揮官は言う。

 ダンカンという選手の魅力を端的に表現するなら、所属チームを何度も勝利へと導いてきた"勝者"という言葉だろうか。レギュラーシーズン通算1392試合で1001勝391敗(勝率71.9%)、プレーオフでも251試合で157勝94敗(勝率62.5%)という見事な実績を残してきた。

「すべてがうまく組み合わさったからなんだ。自分の持つ競争心とゲームへの愛、負けず嫌いな面、それにスパーズという組織が毎年勝利する機会を選手やチーム、街へもたらしてくれた」

 申し分ないNBAキャリアについてそう謙虚に語ったダンカンは2016年に引退後、背番号21がスパーズの永久欠番となり、2020年(式典は2021年)にバスケットボール殿堂入り、2021年にはNBA75周年記念チーム入りを果たし、NBA史上最高のパワーフォワードのひとりという評価を確立している。

 メディアとのやり取りで大胆な発言をすることもほぼなく、かといってファッションでオールスターや会場入り時に一際目立つような装いをするわけではない。それゆえ、華やかな選手たちが揃うNBAでは地味なイメージがつきまとっていた。

 それでも、スパーズ時代の同僚パーカーが「彼は周りの選手たち全員を高めている。それこそスーパースターの定義なんじゃないかな」という言葉どおり、ダンカンはこれから先もリーグ史上有数の"スーパースター"としてNBA史に残り続けていくことだろう。

 引退後は2019-20シーズンのみスパーズでアシスタントコーチを務め、ポポビッチHCが欠場した試合では指揮を執るも、殿堂入り式典を除くとあまりメディアの前には姿を現していない。

 ただ、今夏クリス・ポールがスパーズ加入と報じられると、ダンカンはウェイクフォレスト大の後輩へ歓迎のテキストを送っていた。昨季の新人王ビクター・ウェンバンヤマを中心に飛躍を目指す今季のスパーズで、ダンカンがサポート役として練習などに顔を出して選手たちを鼓舞する場面があるかもしれない。

【Profile】ティム・ダンカン(Tim Duncan)/1976年4月25日生まれ、アメリカ領ヴァージン諸島出身。1997年NBAドラフト1巡目1位指名
●NBA所属歴:サンアントニオ・スパーズ(1997-98〜2015-16)
●NBA王座5回(1999、2003、05、07、14)/シーズンMVP2回(2002、03)/ファイナルMVP3回(1999、2003、05)/オールNBAファーストチーム10回(1998〜2005、07、13)/新人王(1998)/オールスターゲームMVP1回(2000)
●五輪代表歴:2004年アテネ五輪(3位)

*所属歴以外のシーズン表記は後年(1979-80=1980)

著者プロフィール

  • 秋山裕之

    秋山裕之 (あきやま・ひろゆき)

    フリーランスライター。東京都出身。NBA好きが高じて飲食業界から出版業界へ転職。その後バスケットボール雑誌の編集を経てフリーランスに転身し、現在は主にNBAのライターとして『バスケットボールキング』、『THE DIGEST』、『ダンクシュート』、『月刊バスケットボール』などへ寄稿している。

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