井上雄彦、歴代スラムダンク奨学生と語る「高校では終われない、君へ。」

  • スポルティーバ●構成 text by Sportiva
  • 喜 安●写真 photo by Kiyasu

 6月下旬、都内某所――。バスケットボールを愛する4人が、久々の再会を果たした。その輪の中心にいるのは、漫画『スラムダンク』の作家、井上雄彦氏。そして井上氏を囲むのは、『スラムダンク奨学制度』でアメリカに渡った奨学生たちだ。

『スラムダンク奨学制度』とは、井上氏が「バスケットボールに恩返しがしたい」との思いで設立されたプロジェクト。奨学生をプレップスクール(大学に進学するまでの私立学校)に派遣し、14ヵ月間、勉強とバスケットボールのできる環境を提供している。その制度を使って、1期生の並里成(現琉球ゴールデンキングス)を皮切りに、今回集まった2期生・谷口大智(現サウスイースタン・オクラホマ州立大学)、早川ジミー(2013年シーズンから豊田通商ファイティングイーグルス/JBL2部)、4期生・山崎稜(現タコマ大学)らがアメリカへと飛び立った。

 そして今回、久しぶりに顔を揃えた奨学生を前に、井上氏が「若きバスケットマン」への思いを語ってくれた。

左から、山崎稜選手、早川ジミー選手、井上雄彦氏、谷口大智選手(撮影協力/銀座アスター三軒茶屋賓館)左から、山崎稜選手、早川ジミー選手、井上雄彦氏、谷口大智選手(撮影協力/銀座アスター三軒茶屋賓館)「日本人はNBAに行けない、と決めつけることが一番の敵」(井上)

――今日の座談会では、みなさんにアメリカでの生活やエピソードを振り返ってもらいつつ、今後の目標や日本バスケットの未来についても語っていただきたいと思います。

井上雄彦(以下、井上) そういう主旨なら、僕は今日、ほとんど話さなくていいかな。

(笑)

――いえいえ、井上先生は主役ですので語っていただかないと困ります(笑)。では、さっそくですが本日、ちょうどタイミング良くNBAファイナルが幕を閉じました(4勝3敗でマイアミ・ヒートがサンアントニオ・スパーズを下して優勝)。みなさん、ご覧になっていたと思うのですが......。

早川ジミー(以下、早川) いやー。見てないんですよぉ。

井上 見てないなぁ(笑)。

谷口大智(以下、谷口) 結果、知らないですね(笑)。

――いやいや、さっきまでファイナルの話をしていたじゃないですか。どの試合が面白かったですか?

井上 やっぱり(今年のファイナルは)第6戦が一番のポイントだったよね(延長戦の末、ヒートが勝利して3勝3敗の五分に)。忙しくて第6戦と第7戦しか見てないんだけど(笑)。

――山崎選手は?

山崎稜(以下、山崎) あ、まったく見てないです。

井上 バスケ、興味ないの?

(爆笑)

――NBAで好きなチームはありますか?

谷口 僕は以前、ロサンゼルス・レイカーズが好きでしたけど、今はダラス・マーベリックスですね。今、僕はオクラホマに住んでいるのですが、サンダーではなく、ダラスのほうが近いので。ダーク・ノヴィツキー(マーベリックス所属)が好きなんですよ。

――ドイツ出身のノヴィツキーを筆頭に、最近のNBAは外国人選手が増えましたよね。

谷口 そうですね。僕のチームメイトにも、ブラジル人やヨーロッパの選手がいるので刺激になります。

早川 でも、アジアの選手はまだ少ないですね。技術的にはアジア人でもけっこういい選手はいるのに、なぜNBAにはアジア人選手が少ないのか、ずっと疑問に思っていました。マヌ・ジノビリ(アルゼンチン国籍)やトニー・パーカー(フランス国籍)だって、特別に身体が大きいわけじゃない。ズバ抜けた身体能力があるわけではないのに、NBAのトップで活躍しているってことは、彼らの個性がすごく光っているからだと思います。彼らのプレイを見ていると、いろいろ勉強になりますね。

――昨年は台湾系アメリカ人のジェレミー・リンが大ブレイクを果たしました。久々にアジア系プレイヤーにスポットが当たりましたが、井上先生はリンの活躍を見て、どう感じましたか?

井上 アメリカ人がアジア人をどう見ているかは肌で感じていないので分かりませんが、リンの活躍には「目からウロコ」という感じがしました。ひとつの常識が崩れた瞬間だったのではないでしょうか。アジア人がNBAでもできることを示した気がしますね。

――日本人にもできる可能性があるということでしょうか?

井上 日本人自身が、「自分たちはあそこ(NBA)まで行けない」と決め付けているのだとしたら、それが『一番の敵』だと思うんです。その意識を崩すという意味で、リンの活躍はすごく大きい。彼にできて、なぜ自分たちにできないのか、という発想をしてもらいたい。勇気付けられる活躍ですね。

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