2026年のホンダのF1復帰を、過去ホンダを世界一に導いた技術者・浅木泰昭が展望する
元ホンダ・浅木泰昭 インタビュー後編(全2回)
F1開幕戦のバーレーンGPは、日本時間の3月3日(現地2日)に決勝レースが行なわれる。今回、F1で最強を誇るホンダのパワーユニット(PU)の開発責任者を務め、現在はDAZNのF1中継でコメンテーターとして活躍する浅木泰昭氏にインタビュー。
2024年シーズンの見どころを聞いた前編に続き、後編では、すでに開発がスタートしている2026年以降のPU開発やアストンマーティンと組んで復帰するホンダの未来について語ってもらった。
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【アストンマーティンと組んだ背景】
ーーホンダがF1に復帰する2026年からパートナーを組むアストンマーティンについてどのような印象を持っていますか?
浅木泰昭(以下同) アストンマーティンは現在、トップチームから有能なエンジニアをリクルートし、巨額の投資をしてファクトリーを拡充しています。今シーズン中には新しい風洞の稼働も始まります。絶大なリーダーシップを持つチームオーナーのローレンス・ストロールさんが元気なうちにチームがつくられていけば、いずれはレッドブルと互角に戦えるようになる確率は高いと思います。
ホンダとの契約交渉の時にストロールさんの話を聞きましたが、彼はF1で勝つために真剣にチーム運営をしています。レッドブルの創設者ディートリヒ・マテシッツさんと同じような勝利への執念を感じました。将来性はあると思います。
ーーアストンマーティンと組む決め手になったのは?
ホンダとレッドブルはお互いをリスペクトしながら最高の仕事ができていますので、正直言えば、2026年に復帰する際はレッドブルと組むことを当初は考えていました。でも、レッドブルはホンダが撤退を表明した(2022年秋)直後にF1用パワーユニット(PU)製造会社であるレッドブルパワートレインズ(RBPT)を設立し、2026年から自社製のPUで戦うことを決断しました。
そこでホンダは他のチームと話したわけですが、アストンマーティンが一番乗り気でした。「乗り気」とはどういう意味かと言えば、カスタマーとワークスの差をよく理解していました。現状では、アストンマーティンはメルセデスのカスタマーでしかないんです。ワークスのメルセデスがいいマシンをつくったら、彼らよりも上に行くのは難しい。
まぐれではなく、「表彰台の真んなかに立ち続けるためにはワークスじゃなければダメなんだ」というのをストロールさんはよくわかっていました。最終的にはホンダと組めば、将来的にレッドブルのような常勝チームになれるという可能性にかけてくれたと理解しています。
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著者プロフィール
川原田 剛 (かわらだ・つよし)
1991年からF1専門誌で編集者として働き始め、その後フリーランスのライターとして独立。一般誌やスポーツ専門誌にモータースポーツの記事を執筆。現在は『週刊プレイボーイ』で連載「堂本光一 コンマ1秒の恍惚」を担当。スポーツ総合雑誌『webスポルティーバ』をはじめ、さまざまな媒体でスポーツやエンターテイメントの世界で活躍する人物のインタビュー記事を手がけている。