2019.09.13

室屋義秀が明かすエアレース最終戦の裏側。
次の行き先は「見えている」

  • 浅田真樹●取材・文 text by Asada Masaki

 室屋はラウンド・オブ・14こそ、ファステスト・ルーザー(敗者のなかの最速タイム)での勝ち上がりだったが、その後は相手をねじ伏せるような圧倒的な強さを見せつけた。とりわけファイナル4は、出色のフライト。2位に1秒近い差をつける完璧な勝利だった。

 しかし、そんな圧勝劇も、舞台裏では土壇場ゆえの葛藤に苛まれていたことを、室屋は明かしてくれた。

 話は、第3戦(ハンガリー・バラトン湖)のラウンド・オブ・14にさかのぼる。

 室屋はこの時、どのラインを選択すればいいのか、気象条件に応じた複数のプランを携え、レーストラックへと向かった。そして、トラックインを待つ間も風の状況を確認し、毎時10ノット以上の風があることを前提に、最終的なライン取りを決定した。

 ところが、室屋のフライト直前、風はパタリと止まった。「あそこまでの変化は想定していなかった。そういう意味では、(不運というより)準備不足だった」。ラインを読み違えた室屋は、まったくタイムが伸びず、マット・ホールに完敗を喫した。

 当然、千葉での最終戦で、同じ失敗を繰り返すわけにはいかない。だが、一度こういうことが起きてしまうと、事前に用意したプランが本当に正しいのか。そんな不信感が芽生えてしまう。気象条件が目まぐるしく変わる複雑な環境下であればあるほど、フライト直前の室屋が判断を迷い、疑心暗鬼に陥りかねなかった。

「実はそういう気持ちが少なからず生まれて、ベン(レース分析を担当するベンジャミン・フリーラブ)ともかなり議論をしました。そのうえで、(千葉戦前に準備を行なった)福島では実際にいろんなラインを想定したテストをし、タイムを取ってということを繰り返し、ベンの計算は間違っていないんだということを確認して、千葉に入りました」

 第3戦での失敗があるだけに、対策は入念だった。南に近づく台風の影響もあり、気象条件が読みにくいなか、室屋はプランA、B、Cと3通りのラインを用意。そのうえで、風がこの向きだったらA、強さがこれ以上だったらB、といったように、3パターンの前提条件をカードに書き込み、コックピットに貼っておいた。

「正直、今回も風が微妙に変わってきて、フライト直前までAなのか、Bなのかっていうところはあったんです。でも、気持ちに迷いが出ると、操縦全体が崩れてしまう。なので、チーム内で時間をかけて準備をし、こういう条件ならこうと線引きしたんだから、それを信じて飛ぼうと決めました」