遺恨なきバトル。ドヴィツィオーゾとマルケスの語り継がれる名勝負 (4ページ目)

  • 西村章●取材・文 text by Nishimura Akira
  • 竹内秀信●撮影 photo by Takeuchi Hidenobu

「マルクはものすごくうまくバイクをとめて素早く立ち上がっていったけど、自分のほうがさらに早く立ち上がれた」

 ふたりのラインが交錯し、立ち上がり加速でドヴィツィオーゾが前に出たとき、ゼブラに乗り上げていたマルケスのバイクは加速でリアがすべり、マシンが大きく揺らいだ。ドヴィツィオーゾにしてみれば、無理な勝負を仕掛けられたために思わずカッとしたのだろう、マルケスの前でゴールラインを通過する直前に手を振り上げてフラストレーションを表した。

 ところがマルケスは、バイクが滑った挙動を確認するためにこのとき背後を振り返ってリアタイヤあたりを確認しており、ドヴィツィオーゾのこの怒りのジェスチャーを見ていない。これはマルケスの意図せざる愛嬌、というべきだろうか。

 ふたりはその後、パルクフェルメで互いの健闘をたたえ合って抱擁を交わした。記者会見の場でも、質問に対する軽妙な回答に声を出して笑い合い、当然ながら、両者の間に何ら遺恨のかけらは見られなかった。

 知恵と意地と技術を尽くした戦いの果てにはわだかまりを一切残さないことも、名勝負が名勝負となるための重要な要素であろう。

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