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中嶋悟が語る「セナの素顔」■2014年特集『F1 セナから20年後の世界』 (3ページ目)

  • 川原田剛●取材・文 text by Kawarada Tsuyoshi
  • photo by Murakami Shogo

モナコで勝利したときのセナ。左手には中嶋氏にも伝授したというテーピング photo by AFLOモナコで勝利したときのセナ。左手には中嶋氏にも伝授したというテーピング photo by AFLO よくセナの勝利にかける執念が並み外れて強いと言う人がいますが、じゃあプロストはどうなのか? 89年と90年の日本GPでふたりは接触する形でタイトルが決まっていますが、プロストだって勝利にかける思いは同じだったと思います。レベルが違うと言われればそれまでですが、僕だって勝ちたいと思って戦っていました。

 結局、F1ドライバーというのはみんな下のカテゴリーでチャンピオンになり、勝ちあがってきた者ばかりです。みんなが「俺が一番だ、俺が世界一だ」と思っています。そういう世界なんです。でも1位はひとつしかないのですから、そこに実力が拮抗したふたりがいたら、セナとプロストのような接触という結末になっても不思議じゃない。目指すところが一緒で、本当に同じレベルにいる者同士が戦っている中では、ああいう接触事故はあり得ることです。

 お互いに「俺が先だ! 俺が先だ!」と意地の張り合いになって、結果的に重なり合うようにぶつかってしまった。周囲の人たちが故意だとか故意じゃないとか、いろんな意見を述べていますが、同じフィールドで戦ったドライバーとして言わせてもらえば、セナとプロストのアクシデントの真実はそういうことだと思います。

 当時のドライバーたちは、レース中に接触することも厭(いと)わない、命がけで走っていたなんて、そんなバカなことはあり得ません。そんなことは冗談でも言えないですよ。もちろんF1は身体をはって限界に挑むスポーツだと身を持ってわかっていますし、時には相手のことを「この野郎!」と思いながら走ることもあります。だからといって捨て身になって、命をかけてやるものではない。命をかけないように、自分の技と経験を駆使して戦うんです。

 それがレースです。アイツは臆病者だと言われてもいいですが、僕はそう信じています。

 いまは国内のトップカテゴリーで自分のチームを持って監督をしていますが、セナのようなドライバーがいたらうれしいですよ。どんどん勝ってくれるしね(笑)。でもF1ドライバーとして、いきなりセナと組むというのはキツかった。周りからは「なんでセナよりも遅いんだ」と何度も言われましたから。とはいえ、彼が並みのドライバーだったら僕はもっとツラい思いをしたはずです。

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