【F1】「自分の運を自ら生み出す」。最終戦でベッテルが見せた王者の貫祿 (3ページ目)

  • 米家峰起●取材・文 text by Yoneya Mineoki
  • 桜井淳雄●撮影 photo by Sakurai Atsuo(BOOZY.CO)

 珍しく予選でトップ3を逃した土曜日の時点で、ベッテルの表情は硬いように見えた。

「チームのみんなに『僕はナーバスになっていると思う? そうさ、ナーバスだよ』って言ったんだ。もしナーバスじゃなかったら、ミスを犯していただろう。何かを成し遂げるためには必要なことなんだ。こうも言った。『エンジョイしようよ』ってね。僕らは僕らのやるべきことだけに集中し、自分たちらしさを失わないでいることが大切なんだ。それが最後に結果を左右したんだと思う」

 それこそが、苦境の中でタイトルを手繰り寄せた原動力だったのだとベッテルは言う。

 今季のレッドブルはマシン開発が不調で、初優勝までには開幕から4戦を待たなければならなかった。第14戦シンガポールGPでようやくシーズン2勝目。そこからの快進撃が、ベッテルをチャンピオンへと押し上げた。

「開幕時点から僕らはクルマの挙動が去年とは異なっていることに苦しんでいて、僕は思うようにクルマが操れずに(予選で最後の差を生み出す)"トリック"が使えなかった。コーナーへのターンインの際にブレーキをうまく使ってクルマの向きを変えるドライビングスタイルなんだ。僕らはあらゆる手段をトライし、ある時点で進歩を果たした。それによって僕らは速さを取り戻し、本来あるべき方向へと進むことができたんだ」

 アロンソも敗れはしたが、最後まで全力を尽くして戦い抜いたことに満足している。

 そもそも、今季のフェラーリF2012には、タイトルを争うような力はなかった。最終戦でも予選は8位でしかなかった。それをドライバーの腕と戦略とチーム力でここまで走らせてきたのだ。

「最終戦までチャンピオン争いができたこと自体、プレゼントのようなものだよ。最初から最後まで、夢のようなシーズンだった。僕らは素晴らしい仕事をやり遂げ、今日までその夢をつなぎ止めることができたんだ。今はとても良い気分だよ。チームにお礼を言いたい、パーフェクトなシーズンだったよ。100%全身全霊を尽くして戦ったのなら、自分たちのことを心から誇りに思えるものだ。そして、また来年挑戦すればいいのさ」

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