激戦の高松宮記念「スプリント王国」からやって来た刺客は本当に強いのか? (2ページ目)

  • 土屋真光●取材・文 text by Tsuchiya Masamitsu

「(香港の)1400m戦は、この馬には少し長すぎる。(ドバイの)直線競馬も過去のレース内容から、この馬には不向きだと思った」

 同馬を管理するダニー・シャム調教師は、今回のレース選択についてそう語った。

 とはいえ、高松宮記念が行なわれる中京コースは、右回りの香港とは反対の左回り。しかも、最後の直線に上り坂もある。さらに、ずっと香港で戦ってきた同馬にとっては、初の海外遠征。初モノづくしとなる今回の挑戦に、不安はなかったのだろうか。

「デビュー前にトレーニングを積んでいたオーストラリアでは、左回り中心のメニュー。香港に来てからも、毎週月曜日は左回りでの調教を行なっています。普段から乗っている攻馬手が今回も帯同していますが、以前からその左回りの動きには『めちゃくちゃスムーズで適性がある』と言っていました。

 直線の坂についても、今朝(3月19日)の調教で問題ないと感じました。そうしたことを含め、(レースに向けて)自信があります」

 シャム調教師はそう言って、何ら心配する様子を見せなかった。

 逆に、彼は「自信がある」と頬を緩ませた。その裏付けとなっているのは、これまでに彼が積んできた豊富な経験だ。

 シャム調教師は香港のアイヴァン・アラン厩舎のアシスタント時代、香港の歴史的名馬であるインディジェナスとフェアリーキングプローンの担当だった。前者は1999年のGIジャパンCで2着という実績があり、後者は2000年のGI安田記念の勝ち馬だ。

 いずれも、日本のレース参戦は初。特にフェアリーキングプローンに関しては、今回のビクターザウィナー同様、初の左回りで直線の坂も初めて経験する状況にあった。だが、インディジェナスは12番人気、フェアリーキングプローンは10番人気の低評価を覆して、それぞれ2着、1着という好成績を残した。

 さらにシャム調教師は、調教師になってからも海外で活躍。2012年には管理馬のリトルブリッジで、イギリス・ロイヤルアスコット開催のGIキングズスタンドSを勝っている。

 アジア人調教師によるロイヤルアスコット開催での勝利はこれが唯一。この時も、リトルブリッジにとっては初の海外遠征で、アスコット競馬場の急坂はもちろん未経験だったが、見事に克服している。

 ほかにも、香港の現役最強中距離馬であるロマンチックウォリアーを管理。昨年は同馬でオーストラリアのGIコックスプレートを制覇した。

 こうした海外経験豊富で、かつ腕利きのトレーナーが今回の選択を決断したのである。ビクターザウィナーへの期待は自然と高まる。

2 / 3

厳選ピックアップ

キーワード

このページのトップに戻る