2020.12.02

ダートの頂上決戦を前にして思い浮かぶ、怪物クロフネの衝撃の「鬼脚」

  • 新山藍朗●文 text by Niiyama Airo
  • photo by Sankei Visual

 これには、陣営も戸惑いを隠せなかったが、せっかくGI仕様に仕上げたクロフネをこのまま休ませるわけにはいかない。そこで、かねてより「適性あり」と踏んでいたダート戦に矛先を向ける。

 このことによって、眠れる怪物がいよいよ目を覚ますことになるのだから、勝負事というのは、何が災いし、何が幸いするかわからない。

 ダート初戦は、GIII武蔵野S(東京・ダート1600m)。このレースをクロフネは、1分33秒3という芝のレース並みの猛時計で勝利する。むろん、この時計はいまだ破られていないダートマイル戦のレコードタイム。2着馬には、9馬身もの差をつけた。

 筆者はこの時、実は東京競馬場にいた。クロフネが直線に入ってから2着馬との差をぐんぐん広げると、自然発生的にあちこちから大きな拍手が沸き起こったことを今でも覚えている。

 そして、続くダート2戦目がジャパンカップダートである。

 前年覇者のウイングアローや、ダートの本場アメリカからやって来たリドパレスなど、武蔵野Sよりもメンバーのレベルが格段に高かったが、怪物クロフネは何ら問題にすることはなかった。

 スタートでやや出遅れたものの、鞍上の武豊騎手に慌てる様子はなかった。向こう正面あたりから少しずつ進出を開始して、4コーナー手前では早くも先頭に立っていた。

 とりわけ、3コーナー過ぎからのスピード感がたまらなかった。先行馬たちは、手綱を握るジョッキーに急かされて、懸命に前へ前へと進もうとしているのだが、そんな馬たちをクロフネは大外から悠々とかわしていくのである。

 直線を向くと、クロフネは後続との差を3馬身ほどつけていた。"次元が違う競馬"というのは、まさにこういう競馬を言うのだろう。