【競馬】ブリランテのダービー制覇を予感させた「牧場の奇跡」 (2ページ目)

  • 河合力●文 text by Kawai Chikara
  • 写真提供:パカパカファーム

 繁殖牝馬の様子をチェックしながら、日々ダービーへの思いを巡らせていた伊藤氏。手掛けた馬が初めて憧れの舞台に駒を進めるのである。当然、皐月賞と同じく現地観戦に行きたいと思っていた。が、ダービーではそれが実現できそうもなかった。

「子どもがお腹にいる繁殖牝馬は皆、ある程度の出産予定日がわかります。そしてあの年は、最後の1頭が5月30日の出産予定でした。その時点で、僕は『(5月27日の)ダービーの観戦は無理だろうなぁ......』と諦めていました。出産直前に、牧場を離れるわけにはいきませんから。ただ同時に、『この子(出産間近の繁殖牝馬)がダービーまでに子どもを産んでくれたら、現地に行けるんだけどなぁ』なんて、ほんの少しだけ思ったりしていましたね(笑)。繁殖牝馬の出産がすべて終わると、僕は少し休みをもらえますから、それを利用して『東京に行けるのにな』と」

 伊藤氏が繁殖牝馬の出産に追われていた頃、パカパカファーム代表のハリー・スウィーニィ氏は、別の業務で"山場"を迎えていた。

「毎年4~5月は、その年の夏に行なわれるセリ市の準備でてんてこ舞いなんです。どの馬をどのセリに上場するかという選択はもちろんのこと、セリ市用のカタログも作成しなければいけません。パカパカファームの場合、カタログは印刷以外の作業をすべて自分たちでやることにしていますから、これがなかなか大変で......。出産とも重なって、ダービー前は我が牧場の忙しさのピークなんです(笑)」

 上場する仔馬の写真や血統表などが載ったカタログは、セリ市に訪れるバイヤーに配られる。スウィーニィ氏によれば、「毎年ダービーの前までには、カタログに載せる写真やデザインをすべて決めて印刷屋さんに出しています」とのこと。ただし2012年は、ダービー直前になっても決まらないモノがひとつだけあった。カタログの表紙を飾る写真だ。

「カタログの表紙はとても重要で、パカパカファームから活躍馬が出ればその馬の写真を大きく載せています。例えば、2007年のカタログは、直前のNHKマイルカップを勝ったピンクカメオの写真を表紙にしました。もちろん2012年は、ディープブリランテを表紙にするつもりでしたよ。でも、ブリランテのどの写真を載せるかは、ダービーの週になっても決めていなかったんです」

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