【競馬】矯正馬具の着用馬が「買えるとき」「買えないとき」

  • text by Sportiva

元調教師・秋山雅一が教えるレースの裏側
「走る馬にはワケがある」
連載◆第9回

競走馬がレースに集中して走るために使用される矯正馬具にはさまざまなものがある。今回、元調教師の秋山雅一氏が解説してくれたのは、メンコ。その効果とはいかなるものだろうか。

周囲の音に敏感な競走馬に使用されるメンコ。周囲の音に敏感な競走馬に使用されるメンコ。――競走馬に使用される主な矯正馬具のうち、ブリンカー、チークピーシズ、シャドーロール、パシュファイヤーについて解説してもらいました。今回は、メンコについて教えてください。

秋山 メンコは、馬の顔にかぶせる覆面のことです。日本独自の馬具で、海外ではほとんど見かけることがありませんね。これまでに説明してきた、視界を制限する矯正馬具と明らかに違う点は、耳まで覆って、馬の聴覚を制限することです。

 人間に管理されて生産されている競走馬とはいえ、もともとの祖先は野生の馬です。彼らが生きていくうえで大事なことは、肉食動物から身を守ること。そのため、視界が悪い夜でも危険を察知できるように、彼らは聴覚がすごく発達しています。当然、競走馬にはその遺伝子が残っていますから、音にはとても敏感です。おかげで、周囲の音に反応して、入れ込んでしまう競走馬が結構います。それを防ぐために使用するのが、メンコです。特にたくさんの人が集まっていて、ざわついているパドックまで着用することが多いですね。

――そうすると、レースで使用することは少ないのですか。

秋山 私は、メンコを使用することで集中力が増し、それがいい結果に結びつくのならいいことだと思って、レースでも積極的に使っていました。ブリンカーやシャドーロールに比べて、着けたり外したりするのが簡単なので、使い勝手がいいということもありました。

 でも一般的には、馬場入りのときに外したり、ゲートインの直前に外したりするケースが多いです。実際、私が管理していた馬の中にも、聴覚を制限されることで、逆に走ることに集中しなくなってしまう馬や、音が聞こえないことで、闘争心が萎えてしまう馬がいましたからね。

 また、「聴覚を制限することは自然な状態ではない」「三半規管(耳の奥にある脊椎動物の平衡感覚を司る器官)に影響をおよぼして体のバランスが崩れる」という理由で、レースにおけるメンコの使用を嫌う人もいます。人間が思っている以上に効果、逆効果のある馬具だから、厩舎によってはまったく使わないところもあります。

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