【競馬】「長距離輸送」は、競走馬にどんな影響を及ぼすのか
レース前に競走馬が過ごしている競馬場の装鞍所。
元調教師・秋山雅一が教えるレースの裏側
「走る馬にはワケがある」
連載◆第2回
競走馬というものは、非常に繊細な生き物だと言われている。ちょっとしたことが、レースの結果に影響を及ぼすことがある。そのひとつに「長距離輸送」がある。そこで今回は、「輸送」が競走馬に与える影響を、元調教師の秋山雅一氏に聞いてみた。
――前回は、現在の競馬界はなぜ「西高東低」なのかを教えてもらいました。今回は、管理する馬のことについてうかがいたいと思います。例えば、週末のレースに出走することが確定してから、当日のレースまでの間に、特に気を使うことは何でしょうか。
秋山 馬の体調管理は最も大切なことで、日々気を使っていますが、「特に」という意味では、いちばんは輸送(厩舎から競馬場への馬の移動)でしょうね。関東馬であれば、美浦トレセンから中山競馬場や東京競馬場に移動する分には、さほど問題はありませんが、やはり関西の競馬場への"長距離輸送"には、かなり神経を使います。
――やはり長い時間、長い距離を馬運車に乗って移動するのは、馬にとっても苦痛なのでしょうね。
秋山 馬にもストレスがありますから、馬運車に長時間閉じ込められることで、体調を崩してしまうような、輸送そのものに弱い馬はいます。しかし、輸送で最も大変なことは、環境が変わることなんです。人間がよく「その土地の水が合わない」というのに近いものがあって、競走馬にも繊細な馬がたくさんいて、違う土地に行くことで具合が悪くなってしまうことがあるんです。俗に言う「輸送に弱い馬」というのは、そうした環境の変化に対応できない馬がほとんどです。
――「輸送に弱い馬」というのは、どう体調が変わってしまうのでしょうか。
秋山 関東馬が阪神や京都の競馬を使うときは、レースの前日に輸送して、レースが行なわれる競馬場の出張馬房で一泊します。そこで「輸送に弱い」と言われる馬は、環境の変化に敏感に反応し、ひと晩過ごす間にびっしょりと汗をかいて、体力を消耗してしまうんです。厩舎のある美浦トレセンを出る前に量ったときと比べて、20kgも馬体重が減ってしまった馬もいたほどです。そうなると、さすがにレースで影響が出ないわけがありません。
1 / 2