【ゴルフ】『女王』アン・ソンジュさえも陥った、極度のスランプ (2ページ目)

  • 慎 武宏●取材・構成 text by Shin Mukoeng
  • 小内慎司●撮影 photo by Kouchi Shinji

 ただ、そんなソンジュにも、スランプがありました。2008年は、なかなかいい成績を残せず、1勝しかできなかったのです。

 かなり落ち込んでいたのでしょう。彼女は建国大学に在学していて、大学の教授から「ソンジュを助けてあげてほしい」という連絡が来たほどです。それで、実際に彼女に会ってみると、相当思い悩んでいる様子でした。

 まず、自分のスイングに不満を持っていました。彼女の武器は平均260ヤードという飛距離ですが、結果が出ないため、さらに飛ばさなければいけないと考えていたようです。加えて、苦手としていたパッティングにも随分と悩んでいましたね。

 そこで、私は彼女の冬季キャンプに付き添って、一緒に練習をしました。しかしその際、スイングを大幅に改造させたり、新たな技術の習得を強要したりはしませんでした。

 例えばスイングは、手首にあまり力を入れ過ぎないような打ち方をアドバイスするにとどめました。当時のソンジュのスイングは、手首への負担が強く、実際に彼女も手首を傷めやすかったからです。パッティングに関しても同様です。手首をうまく使えるよう、ちょっとした助言を与えた程度です。

 むしろ、意識的に指導したのは、精神面のケアでした。

 トッププロと呼ばれる選手であっても、自分のスイングに満足できなくなる時期が必ずあります。もっと遠くへ、もっと正確に、そして常に安定したスイングを追求しようとして、スイング改造をしたがります。でもそれが原因で、本来の調子を崩してしまうケースもあるのです。

 当時のソンジュは、まさにその悪循環にはまっていました。

 彼女は勝てなくなったことで自信を失い、自分のゴルフに対して、葛藤と迷いを抱えていました。勝てないからスイングを変えなきゃいけない、パットが決まらないからやり方を変えなきゃいけない、彼女はそんな観念にとらわれ過ぎていたのです。

 ゆえに、技術面よりも精神面を重視し、彼女には、「性急にスイング改造やパットのやり方を変えようと、焦る必要はない。まずは自分本来のやり方に立ち返りなさい」と言い続けて、指導を重ねました。

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