プレミアリーグ首位のアーセナル 欧州トップの戦術に適応する遅咲きの10番・エベレチ・エゼ (2ページ目)
【明晰な頭脳と先を読む能力】
3点目のアシストをしたエゼは、ハットトリックの大暴れだったノースロンドンダービー(vsトッテナム)のように大活躍したわけではない。エゼだけでなく、ほとんどの選手は相手をマークしマークされる展開のなかに埋没していた。そのなかで一瞬のチャンスを活用できたほうが勝ったゲームと言える。
アーセナルの3点目の直前、オリーセが3人のDFの間を縫うようにペナルティーエリアに進入していた。それを絡めとったアーセナルがフリーになっていたエゼにつないだのが発端だった。このゲームでは珍しい周囲に人がいない真空状態。エゼはマルティネッリの走り出しを見て、パーフェクトなパスを送った。
今季、クリスタル・パレスからアーセナルへ移籍したエゼは、27歳とやや遅咲きの選手だ。
ロンドン南東部のグリニッジ生まれ。天文台で有名な街は中心部から電車で20分くらいの場所ながら「特別区」とされている。ロンドンの外れというには距離は近いのだが、中心部から少し離れた閑静な住宅地という趣である。ただ、エゼの育った環境はそんな周囲とは違っていたようだ。
「両親が迎えに来るまでは金網の中でずっと遊んでいた」(エゼ)
ある意味、周囲と隔絶された環境で子ども時代を過ごしたそうだ。外と内を隔てる境界線が引かれているような環境でサッカーに興じていたのは、マルセイユの団地の中庭でサッカーに明け暮れていたジネディーヌ・ジダンと似ている。
ユース時代はアーセナル、フラム、レディング、ミルウォールと所属クラブが変わっている。プロデビューは2016年のQPR。2020年にクリスタル・パレスへ移籍、昨季はクラブ初のFAカップ優勝をもたらすゴールを決めている。
今季からアーセナルで背番号10を背負う。ワンタッチコントロールのうまさがあり、瞬間的に相手の動きを止めてしまう。一瞬のスピード、パワー、ボディバランスに優れ、10番らしい意外性溢れるプレーができる。アーセナルの特徴である強度の高い守備戦術にもフィットした。マルティン・ウーデゴールの負傷欠場の穴を完全に埋めている。
エゼはチェスの名手でもあるようだ。2023年にチームメートだったオリーセに教わって始めたそうだが、2025年のアマチュア向けに開催されたオンラインでのチェス大会に出場して優勝。賞金2万ドル(約300万円)をゲットした。始めて2年ちょっとで全勝優勝なので、素質があるのだろう。アーセナルの戦術にすぐに馴染めたのは、明晰な頭脳と先を読む能力が関係しているのかもしれない。
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