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ブラジル代表GKアリソンはコンマ何秒の隙を見逃さない 元日本代表GK南雄太も現役時代に取り入れた高等テクニック (2ページ目)

  • 中山 淳●取材・文 text by Nakayama Atsushi

【かなりマニアックなテクニック】

 アリソン独自のブロックは、どんなメリットがあるのか。

「言葉で表現をするのが難しいのですが、この方法だと体を寝かせているので、股下のスペースも下側の足で消せますし、両手と体で大きな面も作れるうえ、場合によっては上側の足でボールに反応することもできます。何より、相手がシュートする瞬間でも自分から間合いを詰めることができる、というメリットがあります。

 もちろん、自分から仕掛けるということはそこにリスクも伴うので、よし悪しはあります。ただ、アリソンは一般的に受動的とされるGKの常識にとらわれず、能動的かつアグレッシブなGKなので、ある意味、自分のスタイルに適したブロックの型だと思います」

 たしかにアリソンのプレーを見てみると、1対1になった際、自らの体を寄せにいって相手にプレッシャーをかけるシーンが多い。ひと言で言うなら、攻撃的なGK。珍しいタイプだ。

「アリソンの特徴は、ほかにもあります。ひとつは、1対1のシーンで相手に寄せる時のコース取りです。

 一般的に、シューターと向き合った際、GKは正面から直線的に間合いを詰めるものです。しかしアリソンは、わざとシュートコースを空けるような動きをして相手を誘い込み、曲線的な詰め方をするケースがあります。

 たとえば、わざとニアを空けて、相手がシュートする瞬間にニア側に飛んできたシュートをブロックする。言うなれば『GKのフェイント』です。かなりマニアックな部分ではありますが、その誘い方が絶妙なのです。

 もうひとつは、相手がシュートする時、バックスイングに入ったタイミングで間合いを詰めるというプレーもよく見せます。シューターはシュートを打つ前にゴールを見て、キックする場所を決めて、そのボールを見ながらバックスイングをしますが、アリソンはそのわずかな時間を逃さずに寄せるテクニックも持ち合わせています。

 言葉にすると簡単に聞こえるかもしれませんが、バックスイングはコンマ何秒の世界なので、そのタイミングで足を前に踏み出すことは誰でもできることではありません。とはいえ、実に理に叶ったテクニックだと思ったので、それを見た時は僕も現役時代、そのテクニックを取り入れてうまくいったことが何度もありました。

 もちろん、これまでお話したテクニックが成立するのは、アリソンが最後の最後まで相手やボールから目を離さないからです。至近距離でのシュートブロックに長けているのも、最後までボールを見ているからこそ。GKも人間なので、近い距離からのシュートに対しては恐怖心が必ず生まれるものです。ですが、アリソンは絶対に顔を背けるようなことはありません。

 これは一流のGKに共通することではありますが、そういったベースの部分も高いレベルで遂行できるという点が、一流である理由ではないでしょうか」

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