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プレミアリーグ今季の戦術トレンドを現地記者が分析 選定した優秀監督3人とは (2ページ目)

  • ジョン・ブルーウィン●文 text by John Brewin
  • 井川洋一●翻訳 translation by Igawa Yoichi

【新時代の旗手のひとり】

アンドニ・イラオラ(ボーンマス)

 スペイン北部のバスク地方は、今季のプレミアリーグに4人もの監督を輩出している――ミケル・アルテタ(アーセナル)、ウナイ・エメリ(アストン・ビラ)、フレン・ロペテギ(ウェストハム)、そしてボーンマスのアンドニ・イラオラ。

 なかでももっともバスク人らしいイラオラは現役時代、バスク純血主義を貫くクラブ、アスレティック・ビルバオでDFを務め、あのマルセロ・ビエルサの指導を受けた経験を持つ。その時のチームの手法、激しいプレスと素早いトランジションは、今のボーンマスにも受け継がれている。

 イラオラ監督が率いるチームは、前線から相手を激しく追い回し、そこでボールを奪えたら、すぐにゴールを目指す。マイボール時もビルドアップにこだわらず、いかに早く相手ゴールに近づけるかを主眼としている。そのために、スペースを素早く有効活用し、大外はサイドバック、その内側のレーンをウイングが使い、攻撃の枚数を増やす。

 また、トランジションは完璧だ。攻守が切り替わる時に、集中を欠いたり、やるべきことができていない選手は、次の試合で使ってもらえなくなる。

「今季、私たちはオープンな試合で多くの白星を得た」とイラオラ監督は話した。「互いに撃ち合えば、両者に広いスペースが生まれ、得点チャンスが増える。狭いスペースを攻略するのは、うちの特長ではない」

 守備時には、コンパクトな陣形でハイラインを敷く。ただし恩師マルセロ・ビエルサとは異なり、イラオラは完璧主義者ではないので、状況に応じて、プレスの強度やラインの高さ、システムの形を調整する。

 シーズン中盤には5位につけ、ノッティンガム・フォレストと共に、中規模のクラブが今季のプレミアリーグの上位を賑わせた。最終的に9位となり、欧州カップ戦出場権を逃したのは、予算規模の小さなクラブの悩みの常、決定力に優れたストライカーの不在にあった。実際、チャンスの数は6位だった。

 グアルディオラ監督が言ったように、もし本当にフットボールのトレンドがポジショナルなものではなくなっているとしたら、イラオラは新時代の旗手のひとりに数えられるべきだ。指揮官本人は言う。

「ボールをひとりで運び、何かを起こそうとする選手を、私は高く評価する。なぜなら、ポジショナルなプレー――短いタッチでボールを回し、フリーの選手が動いていく――ばかりにこだわっていると、時に使うべきスペースを見逃してしまうからだ」

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