チャンピオンズリーグでインテルがじわりと存在感 3-5-2を機能させる2トップの強さ
西部謙司が考察 サッカースターのセオリー
第44回 ラウタロ・マルティネス&マルクス・テュラム
日々進化する現代サッカーの厳しさのなかで、トップクラスの選手たちはどのように生き抜いているのか。サッカー戦術、プレー分析の第一人者、ライターの西部謙司氏が考察します。
今回は、インテルの2トップ、ラウタロ・マルティネスとマルクス・テュラムを紹介。イタリア伝統の堅守第一の戦いのなかで、このふたりの強さがチームを支えているといいます。
インテルの強さを支えるラウタロ・マルティネス(左)とマルクス・テュラム(右)の2トップ photo by Getty Imagesこの記事に関連する写真を見る
【イタリアの伝統を踏まえたインテル】
チャンピオンズリーグ(CL)準々決勝第1戦、インテルはアウェーでバイエルンに勝利した。ラウタロ・マルティネスが先制、85分に追いつかれたが、88分に交代出場のダビデ・フラッテージが決勝ゴールを決めている。
セリエAで首位のインテルはCLでも好調で、リーグフェーズでは8試合で1失点という驚異的な堅守だった。強豪ぞろいのCLでインテルはちょっと異質だ。それぞれに特徴はあるが、インテルのプレースタイルは1980~90年代の香りがする。
フォーメーションは3-5-2。1980~90年代のセリエAでスタンダードなシステムだったが、現在はあまり見なくなった。3バック+左右のウイングバック、中央のMFはほぼ横並びに近い。そしてラウタロとマルクス・テュラムの2トップ。
ビルドアップで無理をしない。危なくなったらすぐボールを下げる。GKヤン・ゾマーを経由しながら大きく動かしていく。それでも危なかったら大きく前線にフィードする。バイエルンのマンマークによるプレッシングに対してはポジションチェンジを織り交ぜて捕まらないようにする工夫も見られた。ただ、無理はしていない。マンマークならGKは常にフリーなので、少しでもリスキーなら安全なGKへバックパス。
堅実第一はディフェンスラインの高さにも表れている。例えばバルセロナのようなハイラインとは対照的で、時にはフラットではなく斜めにラインを形成して裏をケアしていた。
ラインのリスクをあまりとらないこともあり、ボールへのプレスもさほど強くない。相手が後ろ向きでパスを受けるなど、奪えそうな時は鋭く寄せるが、前を向いている相手には決して突っ込まず、パスコースを切りつつも強引に距離を詰めることはしない。
リードした後は、バイエルンにボールを持たせてローブロックで待ち構えていた。ある意味、楽に守っている。ボールを奪ってカウンターのチャンスになっても、あまり人数はかけず、カウンターで冒険しないので、逆カウンターもされない。人数が足りているので余裕を持って守っていた。
1988-89シーズンにスクデットを獲ったチームと似ていた。ローター・マテウス、アンドレアス・ブレーメ、ジュゼッペ・ベルゴミらを擁し、ジョバンニ・トラパットーニ監督に率いられたインテルは、前年に優勝したミランとは対照的だった。
ゾーナル・プレッシングという新戦術を引っ提げて、従来とは次元の違う強度を見せたミランとは逆に、インテルはイタリアの伝統を踏まえた堅実重厚なスタイル。
トラパットーニ監督の戦術は堅実すぎて「つまらない」と批判されていたのだが、バイエルン戦のインテルも娯楽性という点では似たようなものだろう。ただ、いまどきあまり見ないプレースタイルは逆に新鮮に感じられた。
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著者プロフィール
西部謙司 (にしべ・けんじ)
1962年、東京生まれ。サッカー専門誌「ストライカー」の編集記者を経て2002年からフリーランスに。「戦術リストランテ」「Jリーグ新戦術レポート」などシリーズ化している著作のほか、「サッカー 止める蹴る解剖図鑑」(風間八宏著)などの構成も手掛ける。ジェフユナイテッド千葉を追った「犬の生活」、「Jリーグ戦術ラボ」のWEB連載を継続中。