検索

マンチェスター・ユナイテッドの迷走がまもなく終わる 39歳の指揮官アモリムが「失われた10年」に終止符を打つ (4ページ目)

  • 粕谷秀樹●取材・文 text by Kasuya Hideki

【スポルティング時代から対話を重視】

 アモリムはユナイテッド初戦となったイプスウィッチ・タウン戦を1-1で引き分けたあと、エバートンに4-0、アーセナルに0-2、ノッティンガム・フォレストに2-3、マンチェスター・シティに2-1、ボーンマスに0-3。敗れた3試合はすべて体力、プレー強度で下まわり、ここ数年の欠点があらためて浮き彫りにされている。だらしないパフォーマンスに、本拠オールド・トラッフォードからブーイングが聞こえてきた。

 だが、千里の道も一歩から──。クロップが、そしてアルテタが時間をかけて魅力的なチームを創りあげたように、アモリムに短期の成功を望むのはあまりにも酷な状況だ。決して厚くない選手層、体力不足を補う特効薬など、どこにも存在しない。多くの監督が10年かけて壊した組織を建て直すには、少なくとも3〜4回の移籍市場が必要だ。

 その間にアモリムが好んで用いる3-4-2-1に適したタレントを獲得し、彼が基本プランに掲げる「プレスの強度」を有していない選手は、仮に二束三文でもカネになる間に放出する。

「一朝一夕にして片付く問題でないことは百も承知している」

 ラトクリフ卿も時間を強調していた。

 最高権力者が覚悟を決めた。再建はアモリムに託すしかない。選手との対話を重んじ、常に寄り添い、なおかつ自分の意見を押しつけない人柄は、スポルティングを率いていた当時から好評だった。

 しかも、コミュニケーション能力が高い。記者会見で底意地の悪い質問が飛んでも、笑顔を絶やさずに答える。クロップもメディアと良好な関係を築き、記者会見場は明るいムードに包まれていた。メディアとの対立を好んだファン・ハール、モウリーニョ、ラングニック、テン・ハフとは正反対のキャラクターだ。

「夜明け前が一番暗い」とは、シェイクスピアの戯曲『マクベス』に由来する名文句である。サー・アレックスが勇退して10年が過ぎた。もう少しだけ余裕を持って、暗い時代を楽しもうじゃないか。

著者プロフィール

  • 粕谷秀樹

    粕谷秀樹 (かすや・ひでき)

    1958年、東京・下北沢生まれ。出版社勤務を経て、2001年、フリーランスに転身。プレミアリーグ、チャンピオンズリーグ、海外サッカー情報番組のコメンテイターを務めるとともに、コラム、エッセイも執筆。著書に『プレミアリーグ観戦レシピ』(東邦出版)、責任編集では「サッカーのある街」(ベースボールマガジン社)など多数。

【図】2024-25シーズン 欧州サッカー注目クラブのフォーメーション

4 / 4

関連記事

キーワード

このページのトップに戻る