三笘薫らを独自のアルゴリズムで評価 ブライトンの躍進を支える会長はイギリス有数のポーカープレーヤー (2ページ目)

  • 井川洋一●取材・文 text by Igawa Yoichi

【独自のアルゴリズムで世界中の選手をフィルタリング】

 2009年、ブルームがリーグ・ワン(3部リーグに相当)で苦しんでいたブライトンを買収すると、ブルーム会長兼オーナーはクラブを自社スターリザードの顧客にした。ただし当然、フットボールクラブに賭け事の助言をするのではなく、補強を優位に進めるためのデータを提供したのだった。

 なにしろそこにはブルーム自身を筆頭に、統計と分析のエキスパートが揃い、彼らが独自のアルゴリズムで世界中の選手をフィルタリング。プレー面から性格まで、その項目は数千とも数万とも言われている。詳細は社内外でトップーシークレットとなっているが、唯一現地で報じられているのは、選手がドリブルでボールを運ぶ際にスタンドのファンが起こすノイズのデシベルだ。おそらくほかにも、ライバルたちが見落としている数字があり、それが移籍市場での違いとなっているのだろう。

 三笘薫もそんな独自のスカウティングによって、獲得された選手のひとりだ。2021年夏に、ブライトンが川崎フロンターレに支払った移籍金は、推定270万ポンド(当時約4億円)。初年度はこちらもブルーム会長が保有する姉妹クラブ、ベルギーのユニオン・サン=ジロワーズへ期限付きで在籍し、翌2022-23シーズンからプレミアリーグに初挑戦すると、33試合(チーム6位タイ)に出場し、7得点(同3位タイ)と5アシスト(3位タイ)を記録。クラブ史上最高位となる6位フィニッシュに、主力として大きく貢献したのだ。

 現在の欧州の移籍市場の基準で言えば、破格中の破格で迎えた戦力が、主役級の働きをすると、その選手の価値は飛躍的に上がる。三笘は今もブライトンで活躍しているが、そうしたビジネスモデルに則る形でクラブに大金を残していった選手は、アレクシス・マック・アリスター(現リバプール)、モイセス・カイセド(現チェルシー)、マルク・ククレジャ(現チェルシー)など、数多い。

 ブライトンの順風満帆な経営は続き、昨シーズンにはリーグ最高益となる1億2200万ポンド(約234億円)を計上した。そして今夏の移籍マーケットでは、約2億ポンドを投じて9人の新戦力を引き入れている。これを上回るのは、プレミアリーグ、いや欧州でもチェルシーだけだ(約2億2000万ポンド)。ブルーム会長とブライトンの野望は、燃え続けているのだ。

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