かつて小野伸二がUEFAカップを掲げた地「スタディオン・フェイエノールト」~欧州スタジアムガイド (3ページ目)
「デ・カイプ」には、さまざまなアートが見られることでも知られている。これは、設計当初から建物内で芸術作品を展示したいと考え、また、地元のアーティストを支援するために、作品を購入し装飾することを企画したからだ。
スタジアムの建設にガラスが重要視されたこともあり、1970年代の終わりまで、コンクリートスタンドの床と床の間にステンドグラスの出窓が設置されていた。これらのステンドグラスは現在でもメインスタンドで見ることができる。またスタジアムの周囲には選手の銅像や、スポーツに携わった第二次世界大戦の犠牲者を記念した銅像、プレートなども設置されている。
第二次世界大戦中、スタジアムはドイツ占領軍によって取り壊されそうになったこともあったという。戦後、1949年にスタジアムの収容人数は拡張され、1958年にはスタジアムの照明が追加された。1991年10月29日、デ・カイプはロッテルダム市の記念碑のひとつに選ばれている。大規模な改修が行なわれたのは1994年のことで、商業利用のための建物を増築し、レストランや博物館「歴史の家」が併設されるなど、現在の形になった。
誕生から100年以上の歴史の中で、クラブの試合だけでなく150以上の国際試合も開催されてきた。1963年にはヨーロッパ・カップ・ウィナーズ・カップの決勝の舞台となり、トッテナムがアトレティコ・マドリードを5-1で下し、イングランドのクラブとして初めてヨーロッパのタイトルを手にした。また2000年にはEURO(欧州選手権)決勝も行なわれ、延長戦の末、フランス代表がイタリア代表を2-1で破って優勝している。
またクラブシーンでは、なんとホームのフェイエノールトが2002年5月8日のUEFAカップ決勝でボルシア・ドルトムントを3-2で倒し、オランダではホームスタジアムでヨーロッパタイトルを獲得した唯一のクラブという栄誉を手にしている。なお、この試合にはフェイエノールト1シーズン目だった小野も先発出場し、日本人選手として初めて欧州カップを手にした。
ただ、2006年以来、フェイエノールトはスタジアムの大規模な改修計画を進めて、2014年にはスタジアムの改修を決定。2015年夏に着工し、開閉式屋根を備えた70,000人収容のスタジアムとして、2018年に完成する予定だった。
しかし当初の計画は頓挫し、2016年3月、フェイエノールトは同じ場所に新たなスタジアム計画を発表した。2017年5月、ロッテルダム市は収容人数63,000席の新たな建設計画に合意。そして2019年12月、2025年夏にオープンすると発表した。だが、コロナ禍などの影響もあって改修は進んでおらず、しばらくは現在の「デ・カイプ」を使い続けることになりそうだ。
今後も上田の所属しているフェイエノールトは川のほとりにある、大きな「風呂桶」で、新たな歴史を紡いでいく。
著者プロフィール
斉藤健仁 (さいとう・けんじ)
スポーツライター。 1975年4月27日生まれ、千葉県柏市育ち。2000年からラグビーとサッカーを中心に取材・執筆。ラグビーW杯は2003年から5回連続取材中。主な著書に『ラグビー『観戦力』が高まる』『世界のサッカーエンブレム完全解読ブック』など多数。
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