ユーロ2028の決勝も開催予定 サッカーの母国の聖地「ウェンブリー・スタジアム」100年の歴史~欧州スタジアムガイド (2ページ目)

  • 斉藤健仁●取材・文 text by Saito Kenji

 1966年ワールドカップ、イングランド代表は決勝戦まで勝ち進み、サッカーの母国の意地を懸けて"皇帝"フランツ・ベッケンバウアーを擁する西ドイツと対戦した。試合は、ロスタイムにイングランドが同点に追いつかれ2-2となり延長戦に突入。その延長前半5分、ハーストのシュートが西ドイツのクロスバーを激しく叩いて真下に落ちる。その瞬間、ボールはゴールラインを完全に横切ったのか、それともライン上に落ちただけで、跳ねてピッチに戻ったのか......。

 主審は線審の見解を確認し、ゴールのホイッスルを吹いた。試合はその後、ハーストがハットトリックとなる追加点を決めて4-2でイングランドが優勝。エリザベス女王からムーアがワールドカップを受け取った。ちなみに、旧ウェンブリーのスタジアムツアーの最初には、この「疑惑のゴール」のビデオを見て判定する機械があったそうだが、現在はその試合のクロスバーそのものが、スタジアムでイングランド代表を見守っているというわけだ。

 スペイン・バルセロナのカンプ・ノウに次ぐ欧州2位の約9万人を収容する規模となった新しいウェンブリーは、2007年、予定より1年遅れて完成。FAカップ決勝、チェルシー対マンチェスター・ユナイテッドで幕を開けた。

 現在は、FAカップの決勝、サッカーの国内選手権や大会の決勝、イングランド代表のホストゲームなどのサッカーの主要な試合のほか、アメリカンフットボールやラグビーリーグなどサッカー以外の競技の大会も定期的に行なわれている。

 なおイングランドにはサッカーと同様にラグビーにも「聖地」と呼ばれるトゥイッケナム・スタジアムがあり、ラグビーの主要な試合はそちらで行なわれるが、2015年のラグビーワールドカップではウェンブリーで2試合(ニュージーランドーアルゼンチン、アイルランド―ルーマニア)が実施された。

 ウェンブリーではこの20年の間に、3度のUEFAチャンピオンズリーグ決勝、2012年ロンドンオリンピックのサッカー会場、ユーロ2020の決勝を含むメイン会場として使用され、4年後にはユーロ2028の決勝が行なわれることが決まっている。

 サッカーのイングランド代表は、イギリス王室の紋章の中心の盾にも見られるモチーフ「スリーライオンズ(Three Lions)」をエンブレムに持つ。そして、イングランドはFIFA創設よりも早く、1863年にFA(イングランドサッカー協会)が設立され、ウェールズ、スコットランド、北アイルランドとともにネーションとしてFIFA加盟が認められているサッカーの「母国」だ。

 そのイングランドが自国開催の1966年のワールドカップで優勝したことは先に述べたが、これまで通算16度ワールドカップに出場しながらも、優勝はその1回のみ。 
 
 分散開催となった前回のユーロ2020では、イングランド代表はウェンブリーで行なわれた決勝に進出してイタリア代表と対戦したが、DFルーク・ショーのゴールで先制するも、イタリアのDFレオナルド・ボヌッチのゴールで同点に追いつかれて延長戦に突入。結局、PK戦の末に優勝を逃している。

 実は、チャンピオンズリーグでもウェンブリーで「ビッグイヤー」を掲げたイングランドのチームはまだ現れていない。近い将来、ウェンブリーで、イングランド代表やイングランドの強豪クラブが歓喜する瞬間を母国のサッカーファンは心待ちにしている。

プロフィール

  • 斉藤健仁

    斉藤健仁 (さいとう・けんじ)

    スポーツライター。 1975年4月27日生まれ、千葉県柏市育ち。2000年からラグビーとサッカーを中心に取材・執筆。ラグビーW杯は2003年から5回連続取材中。主な著書に『ラグビー『観戦力』が高まる』『世界のサッカーエンブレム完全解読ブック』など多数。

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