ユーロ2024 ドイツの敗因はジャッジだけではない スペインに劣っていた「幅」の使い方 (2ページ目)
【余力を残していたスペイン】
同点弾が生まれたのは後半44分。なんとかクリンチで試合終了まで逃れるかに見えたスペインだったが、最後の最後で追いつかれた。交代で入った左SBマクシミリアン・ミッテルシュタット(シュツットガルト)のクロスを、右SBヨシュア・キミッヒ(バイエルン)が頭で落とし、ヴィルツがそれを蹴り込んだのだった。
終盤、しゃにむに追い込む姿を見て想起したのは、ゲルマン魂を全開にさせていたかつてのドイツだ。
その昔、ドイツには、1点リードしていても油断はならなかった。相手はライオンに睨まれたその他の動物と化したものだ。最盛期は2点リードでも危なかった。1点差にされれば、同点になるのは時間の問題に見えたほどだ。
しかも舞台はドイツ人が8、9割を占めるシュツットガルト・アレーナである。もしかつてのドイツとかつてのスペインの対戦なら、同点となった瞬間、結果は見えたも同然だったろう。
だが、延長戦に入り、余力はスペインに残されているように感じた。ニコとヤマルが去った後のピッチは、飛車角を奪われた盤上の展開を見るかのようだったが、少なくとも左には鋭さが蘇った。ダニ・オルモがウインガーとして配置されたことと大きな関係がある。
キミッヒに対して優位な関係に立ったことが大きかった。ドイツの攻撃はその時、右攻めが9割を占めていた。レロイ・サネ(バイエルン)に代わって投入されたヴィルツは、ウインガーと言うよりシャドーっぽいポジションを取る選手で、右のサイドアタックはキミッヒひとりに委ねられていた。そのキミッヒが守備で後手を踏み始めた。
ドイツの攻撃はそれまで以上に真ん中に寄った。左は、同点弾こそ左SBミッテルシュタットからのクロスが起点となったが、その他は無いに等しかった。ジャマル・ムシアラはバイエルンでのプレー同様、左で構える時間が少なく、トップ下、あるいはシャードー然としてプレーしていた。左の最深部からの折り返しはまったく望めない状況にあった。
つまり、ドイツはスペインに比べて攻撃の絶対的な幅で大きく劣った。フュルクルクの長身を頼る強引で質の低いプレーが時間の経過とともに増していった。
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