名勝負となったカタールW杯決勝。正直だったフランス、狡猾だったアルゼンチン、このわずかな差が勝敗を分けた (2ページ目)

  • 杉山茂樹●文 text by Sugiyama Shigeki
  • photo by JMPA

【アルゼンチンを後押ししたサポーター】

 ルサイル・スタジアムに集まった今大会最多タイの観衆8万8966人は、その時、狂喜乱舞、大騒ぎだった。記者席に座る筆者も例外ではなかった。ジェットコースターに揺られるような、痺れるような快感に酔いしれていた。

 再延長を希望した。延長で同じだけ点が入った場合は、PK戦ではなくもう30分、再度延長戦を行なうというルールがあってほしかったと、大真面目に思った。

 今大会は接戦続きだった。どっちが勝つにせよ、そうした今大会のフィナーレを飾るに相応しい試合になってほしいと、プレビュー原稿でも書き記していた。

 話は変わるが、2022年カタール大会は、試合内容のみならず、イベント的にも、スタジアム的にもかなり上等な大会だった。前回2018年ロシア大会も上々で、終盤、日本に帰りたくない病に襲われたものだが、今回は、過去最高だったその前回大会を凌ぐほどだ。交通アクセスやスタンドの傾斜角、スタッフのホスピタリティ、表示のセンスなど、話せば長くなるので割愛するが、とにかく、この抜群の観戦環境のなかで、W杯の決勝トーナメントレベルの試合を連日観戦できる喜びは、日本では味わえない。

 決勝の延長PK戦は、秀逸だった大会の終焉を意味していた。コイントスの結果、PKの舞台になったのは正面スタンドから見て左側で、そこはアルゼンチンサポーター席の目の前だった。

 アルゼンチン対フランス。ルサイル・スタジアムを埋めたサポーターの割合は、8対2でアルゼンチンが多かった。

 スタジアムに向かう地下鉄の車両は、アルゼンチンサポに占領されていた。と言っても、遠路はるばるやってきた正真正銘のアルゼンチン人はそれほど多くはなく、その他はどう見ても隣国、サウジアラビア人などを含む現地人だった。ホンモノのアルゼンチン人を見つければ駆け寄り、一緒になって狭い車内で狂喜乱舞する。よく言えばラブリーな人々は、地下鉄を降りるとそのままスタンドに吸い込まれていった。

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