久保建英の今季ベストゲーム。敗戦でも最高評価、誰も捕捉することができなかった (2ページ目)

  • 小宮良之●文 text by Komiya Yoshiyuki
  • photo by Mutsu Kawamori/MUTSUFOTOGRAFIA

緩急の変化だけで相手を幻惑

 今年に入って、新加入のコソボ代表FWヴェダト・ムリキ、ウルグアイ代表右SBジョバンニ・ゴンサレスとの連係のよさも追い風になったと言えるだろう。ムリキはトップで起点になるだけでなく、ゴール前のクロス、パスに飛び込める。G・ゴンサレスは右サイドバックとしてインテリジェンスを感じさせ、久保との波長も合っている。

 久保は決して大柄ではないし、驚くような俊足でもないが、"時間を操る"ことによって優位に立つことができる。緩急の変化だけで、相手を幻惑する。すさまじいプレーインテンシティのなか、わずかに止まることで逆を取って速さを倍加させ、その質をいくつものコンビネーションで重ね、スペクタクルにまで高めることができるのだ。アンドレス・イニエスタが代表的だが、濃厚にバルサ色を感じさせる選手だ。

「たら・れば」に過ぎないが、もしバルサに所属していたら、シャビ・エルナンデス監督のもとでキーマンになっていたかもしれない。2014年、久保がいた当時のバルサの下部組織のチームは、数年ぶりのすばらしい世代(バルセロナの未成年選手に関する規則違反で処分を受け、久保ら数人が退団)で、今やトップチームの中核を担うアンス・ファティ、ニコ・ゴンサレスもいた。

 その点、久保のパス所有先であるレアル・マドリードのプレースタイルは、伝統的に個を生かした速い攻撃と堅い守りを特徴とする。「久保と合うのか」という疑問は残る。ただ、久保がレアル・マドリードで戦力になれる目途は立ってきた。バレンシア戦はもちろん、復帰後のプレー水準の高さは瞠目すべきものがある。

 守備面の物足りなさが指摘されてきたが、味方と協調して守ることができるようになってきた。その結果、彼がボールを突きだすことが多くなり、サイドを破られるシーンも少なくなった。攻撃の特徴がより強く出るようになっているのだ。

 攻守両面で、ポジション取りもよくなっている。

 バレンシア戦の後半、背後を取られそうになったイライシュ・モリバが、久保を引き倒したシーンがあった。同じバルサで育った選手として、「やられると危ない」と察知したうえでの焦りと、何度も位置取りで敗れていた苛立ちがあったのだろう。試合を通じ、バレンシア陣営はモリバを含めて誰も久保を捕捉することができなかった。

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