チェルシーの強さはなぜか。代表チーム的マネジメントを見せるトゥヘル監督の戦略的戦術 (2ページ目)

  • 西部謙司●文 text by Nishibe Kenji
  • photo by Getty Images

【代表チーム化しているクラブ状況】

 トゥヘル監督は2シーズン連続でCL決勝を経験している。パリ・サンジェルマンを率いて準優勝(2019-20シーズン)、チェルシーで優勝(2020-21シーズン)。率いたチームは違うし、相手チームも違うが、共通しているのはどちらもコロナ禍での異例のシーズンだったこと。

 ヨーロッパのトップチームは年間50~60試合をこなす。さらにコロナ禍が重なったとなると、まともなトレーニングすらできない状況だ。トゥヘルのチームは、その影響を受けにくいのかもしれない。

 チェルシーの3-4-2-1システムはシンプルだ。1トップ2シャドーの3人が、5レーン(※ピッチを縦に5分割)の中央3レーンの守備を担当。2人のセントラルミットフィルダーが前方3人の隙間を埋めるようにバックアップして中央を固める。

 サイドはウインバックが高い位置で寄せきればハイプレスで奪いきり、ウイングバックが後方待機なら5バックで守備を固める。ウイングバックがハイプレスかリトリートのスイッチ役だ。

 中央のMF以外は基本的に担当レーンの上下動。シティのようなレーンの交換は少なく、その点で複雑さはない。守っても攻めても強いオールマイティ型。バランスとしては中庸なので、シティやリバプールのような尖鋭的な印象は薄いが、安定感はある。何より構成と役割分担がシンプルなので、誰がプレーしてもそんなに違和感がない。

 このチーム作りの手法はチェルシーのような戦力が充実しているチームには向いていると思う。特定の選手に依存していないので、選手起用のローテーションができる。シーズンをとおして、あまり波のない状態で戦える。

 選手層が厚い、練習時間が限られている、さまざまな性格の試合が想定される。こうした条件は、実はクラブチームというより代表チームのものだ。選手のクオリティを阻害しない程度の戦術的な縛り、攻撃的にも守備的にも戦える対応力、誰もがプレーできるわかりやすい機能性......。

 チェルシーは代表チームに求められる特徴をすべて持っていて、それが現代のビッグクラブが置かれている状況と、コロナ禍でも強さを発揮している要因と考えられる。

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