白熱するユーロの裏側。注意喚起はあったものの観客数100%のブダペストでは何が起きていたか (2ページ目)

  • 了戒美子●文 text by Ryokai Yoshiko
  • photo by Reuters/AFLO

 ロッシ監督は試合後、「代表では魂を込めてサッカーをしてほしいと選手たちには話をした。ポルトガルには敗れたが、フランスとは引き分けた。ハートが一番大事なんだ」と語っている。気持ちで戦うことを大事にする熱いチームだからこそ、ホームの大声援は大きな後押しになったはずだ。

 一方、同点ゴールを決めたフランスのアントワーヌ・グリーズマンは「満員の観客で自分たちを失ってしまった」と告白。ディディエ・デシャン監督は「ハンガリーの選手は人生をかけて戦っていた」と、対戦相手を称えた。

 満員のスタジアムが可能になったのは、ハンガリー人の観客についてはワクチン接種が完了していることが条件だったためだ。国外から来た観客の場合は、PCR検査で陰性が証明できればよかった。欧州の中でもワクチン接種が進んでいるハンガリーでは、独自のワクチンパスポートが普及しており(プラスチックのカードの形状)、カフェなどに入店する際も当然のように提示を求められる。

 それでも、満員のスタジアムに誰もが賛成していたわけではない。グループリーグでハンガリーと同組だったドイツは、グループリーグをミュンヘンで戦ったためにブダペストには行かなかったが、アンゲラ・メルケル首相は「気をつけるように」と、注意を喚起。また、ドイツで中継を行なっていたインターネット放送局では、バイエルンのウリ・ヘーネス元会長が「悪いシグナルを感じる。何事も起きないことを祈るしかない」と、懸念を表明していた。

 ドイツの政治家で疫学の専門家でもあるカール・ラウターバッハ氏は「欧州の半分と世界の貧しい国の95パーセントがワクチン接種していないのに、まるでパンデミックが終わったかのような振る舞い。無謀でスポーツマンシップに反する」と、SNSで大批判を展開した。

 筆者は実際に、ポルトガル対フランスの一戦を観戦するためにプスカーシュ・アレーナを訪れた。満員のスタジアムでは、ほとんどの観客がマスクをしていない。場内アナウンスでは、「人との距離をとりましょう」「マスクをしましょう」などと呼びかけていたが、誰も耳を傾けていない。

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