W杯で活躍のトルコの英雄がウーバー運転手? エルドアン大統領から圧力 (4ページ目)

  • 利根川晶子●文 text by Tonegawa Akiko
  • 山添敏央●写真 photo by Yamazoe Toshio

 シュクルに逮捕状が出されたのは、エルドアン大統領が人気のある彼の影響力を封じるためであり、そしてなによりその資産が狙いだったと言われている。またシュクルのカフェが、アメリカに逃げた反エルドアン派が集まる場所となるのを懸念したからだとの声もある。

 2018年、「ニューヨークタイムズ」のインタビューで彼はこう語っている。

「トルコでの私のイメージは、メディアコントロールにより破壊された。それでもトルコは私の国で、この国の人々を愛している。私は現政権の敵かもしれないが、トルコの敵ではない」

 そしてエルドアン大統領にはこう語りかけている

「民主政治に、正義に、人権の尊重に立ち戻ってほしい。権力ではなく民衆に興味を持ってほしい。トルコにはそんな大統領が必要だ」

 ちなみに、実はエルドアン大統領もかつてはサッカー選手だった。トルコ1部のカシンパサSKというチームの選手で、名門フェネルバフチェもその実力に目をつけていたほどだった。だが、父親がプロになることを反対したため、彼は大学に入り、そして政治の道を選んだという。

 エルドアンは2014年、イスタンブールのなかでもリッチで保守系の住人が多い地区に、イスタンブール・バシャクシェヒルFKを誕生させた。エルドアンの姪の夫が会長を務めるこのチームのことを、口の悪い人間は「エルドアン・フットボールクラブ」とも呼ぶ。バシャクシェヒルは2019-2020にリーグ優勝したが、スタジアムに自チームのサポーターが少ないと党員を動員するとも言われている。 

 また、2018年ロシアW杯の直前、ドイツ代表のメスト・エジルがエルドアン大統領と記念写真を撮って非難され、エジルの代表引退のきっかけとなったのも有名な話だ。

 一方、カフェを閉め、カリフォルニアからワシントンに移ったシュクルは、ウーバーの運転手となった。

「生きていくために私は運転している。それは当たり前のことで、恥じることではない」と、前出の『ヴェルト』紙にシュクルは語る。時には、男女の高校生や大学生たちにサッカーのプライベートレッスンなどもしているようだ。

「やはり自分が一番得意なことをしたい」

 レッスンの様子をSNSにあげながら、彼はそうコメントしている。毎週トルコリーグについてのコメントも欠かさない。特に愛するガラタサライについては熱が入るようだ。

4 / 4

関連記事

キーワード

このページのトップに戻る