グアルディオラに異常事態発生。発明家は次の材料を手に入れられるか (3ページ目)

  • 西部謙司●文 text by Nishibe Kenji
  • photo by Getty Images

◆20年先を行っていたクライフの戦術。ドリームチームはこうして生まれた>>

 カンセロ、ロドリを後方支援に残すことで、ケビン・デ・ブライネとベルナルド・シウバのインサイドハーフが、より攻撃に関与しやすくなる間接的な効果は期待できるかもしれない。しかし、チャンスメークの多くがデ・ブライネにかかっているのが現状で、後方支援は大した効果を生み出せていない。

 ペップの錬金術もネタ切れになってしまったのだろうか。

<アタッキングサードの錬金術師>

 グアルディオラは、監督としてイチからサッカーをつくったことがない。

 バルセロナには、すでに確固とした哲学とプレーモデルが存在していたからだ。ペップ自身も自分を「ラファエロの弟子」と位置づけていた。

 ルネッサンスの巨匠ラファエロ・サンティは、工房に多くの弟子たちを抱えていた。ラファエロは、多くの作品の1から10まで自分でつくり上げたわけではなく、弟子たちが仕上げを行なっていたという。

 バルサのサッカーでデッサンを描いたのはヨハン・クライフであり、つづく監督たちがそれに彩色を施してきた。ペップ自身もその弟子たちのひとりにすぎないという謙遜である。

 ただ、クライフが監督時にイメージしていたサッカーは、おそらく彼の在任中は実現されていない。ペップのチームになって「ああ、そういうことだったのか」と腑に落ちるところがたくさんあった。ペップのおかげで、クライフ時のドリームチームが再評価されたところもあると思う。

 バルサの、いわば原理主義のなかで育ったペップにとって、やるべきサッカーはすでに決まっている。それをどういう方法で行なうかが彼の仕事だった。

 ペップは手にしたものを黄金に変える錬金術師だ。ボールを確保するところまでは、いわばそのための土台にすぎず、「偽SB」やカンセロの移動もその範囲でしかない。錬金術師たるところはアタッキングサードである。

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