ベンゲルは過去10年でサッカーの何が最も進展したと考えているのか (2ページ目)

  • サイモン・クーパー●文 text by Simon Kuper
  • 森田浩之●訳 translation by Morita Hiroyuki

「そう、アーティストが必要とされなくなってきた」と、ベンゲルは言う。「今のフットボールは時速200マイルで突っ走る列車のようなものだ。まずは、列車に乗れることを証明しなくてはならない。列車に乗れば才能を示せるが、乗らなければプレーはできない」

「最近はプレーがいささか画一化されすぎていると思う。今は2種類のプレーしかない。非常に高い位置(相手チームのゴール寄り)で守るか、それとも非常に低く(自陣ゴール寄り)に構えるか。基本的に(監督が)話すことはいつも同じだ。『できるだけ早くボールを奪い、一発決めてやれ』。GKからボールが出ると、みんなプレスに走る。ボールを奪うために組織的な守備が徹底される。そこで犠牲になるのは創造性だ」

◆「連載・ベンゲルがいた名古屋グランパス」>>

 マネージメントに戻ってほしいという「数えきれないほどの提案」があるが、すべて断っているとベンゲルは自伝に書いている。しかし、フットボールへの関わりを完全に断ち切ろうとはしていないようだ。彼は笑いながら言う。

「今はまだ、私にとっての世界を終わらせる勇気がない。だから少しだけパイプを残し、生きがいを完全につぶさないようにしている」

 仕事中毒である彼は、71歳という年齢とどう折り合いをつけているのか。

「年齢は関係ない。答えはひとつしかないし、それは後になってみないとわからない。人生の最後の日まで闘うこと、あれこれ考えずに自分の仕事をすることだ。考えすぎるのはよくない。なんの役にも立たないから。生きているうちは、何かをしていないといけない。愛し、創造し、働く。どれだけ時間が残っているかなんて考えなくていい。そんなことは誰にもわからない」

 ベンゲルには自分が70代だという実感があるのだろうか。

「まったくない。まだフットボールもプレーしている。ちゃんとしたオフィシャルなゲームだ。次の試合は11月9日にある。でも正直に言うと、3日おきにプレーするのはきつくなった」

 フットボールを「ただのゲームじゃないか」と思うことはないのだろうか。ベンゲルはまた笑う。

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