香川真司、10年前のドルトムント移籍。周囲の見る目が変わった瞬間 (2ページ目)

  • 了戒美子●文 text by Ryokai Yoshi
  • photo by AFLO

 63分には、やはりこの日がブンデスでのデビューとなるロベルト・レバンドフスキ(現バイエルン)が途中出場するが、大きな仕事をすることはなかった。このシーズンのレバンドフスキは、まだまだルーカス・バリオス(現ヒムナシア)の控えだった。

 チームは0-2で敗れたが、香川は存分に存在感を見せ、ホームスタジアムのジグナルイドゥパルクを埋め尽くすサポーターたちを虜にした。野太い声のドイツ人男性が香川の一挙手一投足に注目し、チャントを歌い上げた。日本からきた小柄な21歳にドルトムントの街中が熱狂する、そんな2シーズンの始まりだった。『キッカー』誌は香川に、この試合でチーム最高点の2.5点をつけている。

 香川は、この開幕戦の3日前に行なわれたヨーロッパリーグのプレーオフ、カラバフFK(アゼルバイジャン)戦で2ゴールを挙げ、4-0の勝利に貢献した。「ドイツだけでなく欧州全域のクラブと対戦できることそれ自体が楽しみ」と、当時、語っている。

 このシーズン、ドルトムントはブンデスリーガを制し、翌シーズンはチャンピオンズリーグに出場することになるが、そんな大舞台での活躍は、本人でさえ想像がつかないことだった。

 アジアから移籍してきた、海のものとも山ものともつかなかった香川が、なぜ加入直後から活躍できたのか。もちろん、クロップがその力を見抜いて積極的に起用したからなのだが、なぜ見抜いてもらえたのか。

 よく言われるのは、チームの中心選手であり地元育ちであるグロスクロイツらと仲が良く、チームメイトやファンに愛されたのが要因ではないかということだ。ドルトムントでタクシーに乗れば、運転手が「この前、パーティ帰りのケヴィンと香川を乗せたよ」「香川の家を教えてあげようか」などと、たびたび話しかけられたものだ。ピッチ外でチームメイトたちと交流を深めたのは事実なのだろう。

 だが、だから活躍できたというのではないだろう。むしろ順序は逆で、ピッチの中でチームメイトに認めてもらえたからこそ、人間関係がついてきたのではないか。当時、専属通訳として香川についていた山守淳平氏が明かしてくれたことがある。

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