2020.08.13

ベンゲルは才能を発揮させる名人。最高傑作は「無敵」のアーセナル

  • 西部謙司●文 text by Nishibe Kenji
  • photo by Getty Images

サッカー名将列伝
第10回 アーセン・ベンゲル

革新的な戦術や魅力的なサッカー、無類の勝負強さで、見る者を熱くさせてきた、サッカー界の名将の仕事を紹介する。今回は、フランス人のアーセン・ベンゲル監督。アーセナルを22年間指揮して数々のタイトルをもたらし、日本でも監督を務めたことから、度々代表監督候補として名前が挙がる名将だ。スタープレーヤーの実力を引き出して、魅力的なサッカーを繰り広げた、その手腕とは。

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<選手再生の名人>

 現役引退後、ストラスブールのユースチームやカンヌのアシスタントコーチを経て、1984年にナンシーの監督に就任。アーセン・ベンゲルの名が知られるようになったのは、次のモナコの時代だ。

2003-04シーズン、アーセナルで無敗優勝を遂げた時のアーセン・ベンゲル監督 87~94年に指揮を執ったモナコでは、ジョージ・ウェア(リベリア)をブレイクさせ、ユーリ・ジョルカエフ(フランス)をスターに押し上げている。名古屋グランパスではドラガン・ストイコビッチ(セルビア)を再生させ、アーセナルでもデニス・ベルカンプ(オランダ)、ティエリ・アンリ(フランス)などを復活させた。

 もともと才能的には大スターになるべきだったかもしれないが、ベンゲル監督に出会うまでは燻っていた選手たちだった。若手の発掘にも長けていて、アーセナルではニコラ・アネルカ(フランス)をパリ・サンジェルマンから引き抜き、セスク・ファブレガス(スペイン)もバルセロナから獲得した。

 才能を発揮させるのがうまい。たぶん、環境をつくるのがうまいのだと思う。

「馬を水飲み場に連れて行くことはできるが、水を飲ませることはできない」

 これは70年代の名将ヘネス・バイスバイラーの言葉だが、ベンゲルの手法はまさにそれだろう。

 たとえば、アンリはユベントスでサイドハーフとして起用されていた。スピードがあったのでフランス代表でもそこが定位置だったのだが、ベンゲルはストライカーとして起用した。