2020.08.11

香川真司が輝きジーコジャパンが惨敗したスタジアムで見た衝撃の光景

  • 杉山茂樹●文 text by Sugiyama Shigeki
  • 赤木真二●写真 photo by Akagi Shinji

 両軍選手はよく走り、よく闘った。スピードも120分間、最後まで落ちなかった。ドイツサッカーの真髄を見るような、力感のこもる一戦だった。

 延長後半14分、ドルトムントが最後の時間稼ぎのための交代を行なうと、ドルトムンターは全員で飛び跳ねながら「ユール・ネバー・ウォーク・アローン」の合唱を開始した。そしてタイムアップ。

 すると、逆サイドのゴール裏席に陣取っていたバイエルンサポーターは、持参した応援旗に火を点け、燃やし始めたのだ。火の手はスタンドのあちこちで上がった。その衝撃的かつ退廃的な光景に、こちらの目は釘付けになった。

 前で述べたように、バイエルンは前のシーズンのCL決勝でユベントス側に付いた。自国のよしみでドルトムントを応援しなかった。それも不思議だったが、こちらも不思議である。

 1998年3月は、フランスW杯の開幕まで3カ月という時期だった。日本はCLどころではなかった。ファンの関心はW杯という国別対抗戦一色に支配されていた。サッカーに対する日本人のカルチャーギャップが、最大値を示していた瞬間と言ってもいい。この時、ヴェストファーレンの記者席に座っていた日本人は、筆者を含めて3人のみだった。

 バイエルンサポーターが立ち去った後もなお、スタンドのあちこちで火が燃えさかる、どこか幻想的な炎を眺めながら、CLの真髄について考えた。

 都市国家を中心に発展を遂げてきた欧州にとって、相性がいいのは、国別対抗戦というより都市対抗戦。まず国別対抗戦ありきの日本とは歴史的な背景が違う。

 ちなみに、それから8年後、日本代表はこのスタジアムで国別対抗戦を2度、戦っている。ひとつは2006年ドイツW杯に向けた準備試合として行なわれたボスニア・ヘルツェゴビナ戦。そして、その本番におけるW杯のグループリーグ第3戦である。玉田圭司のゴールで先制しながら、1-4で敗れたブラジル戦だ。

 1997-98シーズンに戻れば、バイエルンを倒したドルトムントは、続く準決勝でレアル・マドリードと対戦。第1戦アウェーで2-0、第2戦ホーム0-0、通算0-2で敗退した。そしてレアル・マドリードは、アムステルダム・アレナ(現ヨハン・クライフ・アレナ)で行なわれた決勝でユベントスを倒し、32シーズンぶりの優勝に輝いた。