西野朗監督がタイで愛されるわけ。
U-23選手権で大仕事を遂げている
ひとりの日本人監督を中心に、スタジアム全体がひとつになっている。そんな雰囲気を感じさせる試合だった。
アジアU-23選手権グループリーグ。開催国のタイは1勝1敗の勝ち点3で迎えたA組第3戦で、イラクと1-1の引き分け。勝ち点を4に伸ばすとともに、勝ち点5のオーストラリアに続く、グループ2位となった。
この結果、タイはグループリーグを突破し、準々決勝へ進出。今大会の上位3カ国に与えられる東京五輪出場権の獲得へ向け、また一歩前進した。
ひと仕事終えたU-23タイ代表の指揮官は、試合後、記者会見場に姿を現すと、両手を合わせて一礼してから着席。はじめに試合についてのコメントを求められると、開口一番、「コップンカップ(ありがとう)」と、タイ語で感謝の言葉を口にしてから、話し始めた。
「チーム全体で、積極的に1試合1試合、積み上げてきた結果のベスト8。ひとつ大きな目標に到達できたことに、選手を称えたいと思う」
A代表との兼任でこのチームの監督に就任して約半年、西野朗監督もすっかりタイの文化に馴染み、振る舞いも板についてきたようだ。
相手を尊重し、受け入れるという点では、タイの人たちも同じだ。西野監督が試合後の会見場にやってくると、グループリーグ突破を決めたイラク戦ばかりか、敗れた第2戦のオーストラリア戦でも、地元の記者たちから拍手が起きた。
アジアを代表する強豪国のひとつであるオーストラリアを相手に、1-2で敗れはしたものの、こと前半に関しては圧倒したと言っていいほど攻撃的な姿勢で挑み続けた。そんな試合内容が、彼らを十分にワクワクさせたということだろう。
スタンドに集まったサポーターたちもまた、日本で数々の実績を残した指揮官を尊敬している。
試合前のメンバー紹介でも、その名が呼ばれると、他のどの選手よりも大きな拍手と歓声が起きるのは、決まって西野監督だ。
また、かつてベリンダ・カーライルが歌ってヒットした「Heaven is a place on earth」のメロディに乗せ、「アキラ・タイランド」とコールするチャントは、彼らの応援の中心をなしている。
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