悲運と戦い抜いたロベルト・バッジョ。背筋が寒くなるほどの美しさ (2ページ目)

  • 西部謙司●文 text by Nishibe Kenji
  • photo by Getty Images

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 延長に入ると、1人少ないイタリアが主導権を握っていた。ゆっくりとパスをつなぎ、じりじりとナイジェリアのゴールを包囲する。激しい打ち合いに持ち込まれたら11人のナイジェリアが有利なのは自明だった。ある意味、壮大なブラフである。それまで余裕を失っていたイタリアが、初めて見せた彼ららしい老獪な顔だった。

 勝ったと思っていたナイジェリアはショックから立ち直れず、イタリアの真綿で首を絞めるような攻撃に苛まれた。そして、バッジョのひょいと浮かしたパスからイタリアがPKを獲得。これをバッジョが冷静に決めて勝利をたぐり寄せた。

 ここからはバッジョの独壇場になる。準々決勝のスペイン戦ではローアングルショットの決勝点で2-1、準決勝のブルガリアも21、25分の連続得点で2-1。ノックアウトステージに入ってからのイタリアの6得点中5ゴールがバッジョだった。

 ナイジェリア戦以降のバッジョは絶対的なオーラを纏っている。打てば入る、記者席からもそう見えた。グループリーグも含め、イタリアは勝った試合でもすべて1点差だった。しかし、バッジョとともに蘇ってからは、揺るぎない安定感を醸し出している。

 しっかり守っていれば負けない、そのうちにバッジョが必要なゴールをもたらしてくれる。イタリアにとっては伝統的な、戦いやすい形になっていた。サッキ監督の革新的なゾーンシステムではなく、受け継がれてきた血がイタリアを押し上げていた。

 ブラジルとの決勝は、バッジョ対ロマーリオになるはずだった。だが、どちらもそれまでの試合が嘘のように精彩を欠き、0-0のまま120分間を終えている。バッジョは負傷に苦しんでいて、名手マウロ・シルバと鉄壁のDF陣に抑えられた。ロマーリオも大会中に手術を終えて戻ってきたバレージの好守に行く手を遮られている。

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