移籍?残留? 久保建英は順調な進化のために今季をどう過ごすべきか (2ページ目)

  • text by Tsugane Ichiro
  • photo by Getty Images

 成長という言葉を使うと、日本的な「手とり足とり教える」をイメージされそうだが、欧州ではチャンスを与えれば能力のある選手は自然と頭角を現すものであって、若い選手の場合にはプレーに専念できるようにサポートするスタンスに過ぎない。世界中から傑出した才能が集まるレアル・マドリードのようなクラブであればなおさらだ。

 昨シーズンのヴィニシウスがそうだったように、トップチームでケガ人が出たときや、カップ戦などでトップに引き上げられてデビューを果たす可能性はある。今季のレアル・マドリードはマルコ・アセンシオの故障もあって、ポジションが近い久保にもチャンスがめぐってくるかもしれない。

 だが、忘れてはならないのは、レアル・マドリードが「常勝」を義務づけられた世界屈指のメガクラブということだ。期待の若手であっても、負ければ批判に晒される。あまりのプレッシャーに、才能を開花できずにチームを去った選手は数え切れないほどいるだろう。それを乗り越えるためには、人間的なタフさを身につける必要がある。だからこそ、ジダン監督は久保を手もとに置いて精神的な成長も促していくはずだ。

 そうしたプロフットボール選手としての基本を教え込むのは、監督としては当然のことでもある。日本なら若手を起用して試合を落としても、「若い選手を育てるためだから仕方ない」となりがちだが、レアル・マドリードでは絶対にそうはならない。すべてが監督の責任になって、最悪の場合は監督交代へと発展しかねない。だからこそ、万全を期して起用できるレベルになるように、久保をトップチームに置いて実力を引き上げようとするだろう。

 久保のすごさは、試合途中から出場して、プレー時間は15分から25分くらいと限られたなかにもかかわらず、実によくボールが集まってくることにある。それはなぜか。もともと技術の高さと、正確な判断のともなったプレーが高く評価されていることもあるが、これに加えて、移籍から間もない中でしっかりとチームに溶け込んでいるからだ。これは練習だけではなく、普段から周囲とコミュニケーションを重ねていることが大きい。

 よく日本人選手が海外移籍すると、現地では「何を考えているのかわからない」といった報道をされることがある。「言葉の壁」があるからと思われているが、実は言葉ができるだけでは壁を乗り越えるのは難しい。言葉だけではなく、そもそものコミュニケーション能力が求められるのだ。しかも、練習場だけがコミュニケーションの場ではない。クラブハウスや練習後の食事、移動の飛行機やバスなどで、味方の特徴や考え方などについて、互いに理解を深めていかなくてはいけない。

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