2019.07.09

コパ優勝も、不安げなネイマールの姿が
象徴するブラジルの未来

  • リカルド・セティオン●文 text by Ricardo Setyon
  • 利根川晶子●翻訳translation by Tonegawa Akiko

 コパ・アメリカ2019、決勝ブラジル対ペルー。チケットの値段が高く、空席の目立つ試合もあった今大会だが、自国の優勝をかけた試合は、さすがに巨大なマラカナンも超満員だった。

 期待と不安の入り混じるスタジアムをぐるりと見やる。するとその時、ひとりの男の姿が目にとまった。彼だ。たぶん一緒にいるのは息子だろう。試合のあいだ中、彼はひと言も声を発することなく、ひっそりと成り行きを見つめていた。試合を見ていたのか、それともピッチの上に自分の動きを思い描いていたのかはわからない。

 試合を観戦していたネイマールは静かで、終始不安そうだった。唯一、彼が笑顔を見せたのは、ブラジルが1点目のゴールを決めた時だ。なぜなら、この日のブラジルは見る者を不安にさせるような、そんなプレーをしていたからだ。ネイマールだけではなく、サポーターもハラハラさせられどうしだった。決勝戦は、かなり苦しい勝利だった。そしてネイマールもまた苦しんでいた。見ている者が苦しくなるほどに……。

 彼の顔にやっと笑顔が戻ってきたのは、審判がタイムアップの笛を吹いた瞬間だった。笛とともにマラカナンには音楽が鳴り響き、7万人近いサポーターはいっせいに踊り出した。ネイマールも一緒に踊り、歌い出す。

「オー!カンペオン!ヴォルトウ!(チャンピオンが戻って来た)」

優勝トロフィーを掲げるキャプテンのダニエウ・アウベス photo by Watanabe Koji そう、勝利はやっとブラジルに戻って来た。ブラジルがトロフィーを天に掲げたのは実に7年ぶりのことだ。これまでネイマールを中心にして作り上げてきたチッチ・ブラジルの初のタイトル。しかし、優勝したチームにネイマールはいなかった。

 勝利を喜ぶネイマールの笑顔は、一見、屈託なさそうだったが、その裏には苦い思いが隠されていたはずだ。この10年のブラジルで一番の逸材と言われながら、ネイマールは代表で、何も勝ち取っていない。リオ五輪では金メダルを取ってはいるが、それはあくまでもU-23の戦いだ。ネイマールはもう27歳。選手として円熟した年齢に差しかかっている。だが、肝心な時に彼はいなかった。仲間たちが勝利を手にした今も、ネイマールは無冠のままだ。