アヤックスの快進撃がついにストップ。
記憶に残る試合後の美しい拍手

  • 中田徹●取材・文 text by Nakata Toru
  • photo by AFLO

 最近、オランダの田舎町の理髪店に行ったら、先客の子どもたちがドニー・ファン・デ・ベークの髪型のようにサイドを刈り、トップにワックスをタップリ塗って左から横に分けていた。もしかすると、その髪型は近所の子どもたちの間で流行っているのかもしれない。

終了の笛が鳴った瞬間、アヤックスの選手たちはピッチに倒れこんだ終了の笛が鳴った瞬間、アヤックスの選手たちはピッチに倒れこんだ 今シーズン開幕時、ファン・デ・ベークはベンチスタートが多く、移籍を仄(ほの)めかしていた。だが、アヤックス育成出身者であり、ハードワークを厭(いと)わず、しかも賢く効率的なプレーができるので、彼がピッチに立つとファンは熱狂的に歌い出す。

 ファンの支えによって成長を遂げたMF――それがファン・デ・ベークかもしれない。チャンピオンズリーグ(CL)準決勝・第2戦のトッテナム・ホットスパー戦でも、アヤックスの2ゴールすべてにファン・デ・ベークのオフ・ザ・ボールの動きが利いていた。

 フレンキー・デ・ヨングはゲームメーカーとして秀逸だが、守備面での貢献も光るオールラウンダーだ。彼はコメントでもオランダ人を熱狂させる。デ・ヨングはCL決勝トーナメント1回戦のレアル・マドリート戦、自陣に近い位置でボールをロストし、失点につながりそうな大ピンチを招いた。

 試合後、インタビュアーが「あの位置であんな危険なプレーをしてはいけないんじゃないか?」と、セオリーを交えて質問した。するとデ・ヨングは、笑顔を崩さす「あの場面では加速した瞬間に(足が)つっちゃってね。次はもっとうまくやるよ」と言い切ったのだ。

 失敗した後の「次はもっとうまくやるよ」のひと言を、人々は驚き、感心し、笑い転げてポジティブに捉えた。

 試合直後にチームを代表してインタビューを受けるのは、19歳のDFマタイス・デ・リフトだ。チームが勝っても負けても、チームの顔として責任を負う役目を、1年間ずっと続けてきた。いずれこの男が、オランダ代表のキャプテンマークを巻くことになるだろう。

 今季のアヤックスが、国内でアンチからもウケているのは、近所にいるような普通の青年が、ピッチ上ではビッグクラブを相手に一歩も引かない一方で、試合後は日頃の社交性が透けて見えるような振る舞いでインタビューに応じている姿にある。若き集団がレアル・マドリードやユベントスといったメガクラブを相手に攻めきって勝ってしまったことに、オランダ人は快哉を叫んだのである。

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