ジラルディーノ現役引退。アテネ五輪で日本を粉砕した並外れた冷静さ (2ページ目)

  • 小宮良之●文 text by Komiya Yoshiyuki photo by AFLO

「ピエモンテ州の男は、たしかに冷淡で慎重なところはあるのです。でも、アルベルトの落ち着きぶりは、大人である私も舌を巻くほどでした。少しも手がかからない子供で、いたずらをしたことも思い出せないですし、叱ったこともないですね。あまり喜怒哀楽を見せないので、笑っている写真を探すのが大変だったんですよ」

 父はそう言って、自宅に飾ってあった写真立ての位置を直した。祈りを捧げながら、微笑むというよりはにかむジラルディーノの姿があった。

 冷静沈着。それはジラルディーノの異能だったのだろう。
 
 ゴール前でたいがいの選手は感情が乱れるものだ。「これを決めれば、ヒーローになれる!」「これを外したら道はない......」。いずれにしても、気持ちを制御するのは難しい。しかし、ジラルディーノは感情を抑制することによって、冷徹にゴールを撃ち抜くことができた。ストライカーとして、天性の資質に恵まれていたと言えるだろう。

 とはいえ、なにも「氷のように冷たい男」というわけではなかった。

 12歳の頃、ジラルディーノはコッサテーゼという地方の小さなクラブに所属している。現地を訪ねたが、ひなびた施設だった。寂れた照明灯、芝生と雑草が混じったピッチ、うらぶれたクラブハウス。スタジアムのコンクリートはところどころ表面がはがれ落ち、昔も今も変わらないという。

 ジラルディーノ少年は、そこで異彩を放っていた。

「ボールを追うときの目がよかったです。いつもは本当におとなしかったのですけどね。ピッチではとても情熱的。うまい子はたくさんいますが、彼はもっとうまくなりたい、と思っていたんでしょうね」

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