ロシアW杯で見えた「世界の潮流」と「フランス、ベルギーの共通点」 (2ページ目)

  • 中山淳●取材・文 text by Nakayama Atsushi photo by JMPA

 ところが、いくつかの試合ではVARが適用されるべきと思われたシーンでも適用されなかったばかりか、時には主審がイヤホンに手をあてながらVARに確認するだけでジャッジを下したシーンがしばしば見られたことが、問題だった。

 たとえば、大会2日目のポルトガル対スペイン戦。スペインのディエゴ・コスタが同点ゴールを決めた際、シュート前にポルトガルのペペと競り合った時、ディエゴ・コスタにファールがあったのではないかというシーンがあった。その時、主審はモニターを確認せずにVARとのコミュニケーションだけでゴールを認めている。

 その場合、最終的にファールがなかったと判断したのは主審だったのか、それともビデオを見ていたVARだったのかは、2人以外にはわからないという現象が起こった。またそれにより、VARを適用すべきかどうか(=主審に明白な誤審がある)という判断が、VARにある以上、あるプレーについては主審が最終ジャッジを下すのではなく、VARが下しているに等しいという、このルールの矛盾が露呈してしまった。

 今大会でVARを担当した13名のうち、大会に出場していないイタリアからは3名が選出されている。イタリアでは、ドイツ同様に昨シーズンから国内リーグ(セリエA)でVARが導入されているという背景もあるが、それにしてもイタリアのマッシミリアーノ・イラッティだけが重要な決勝トーナメント以降の15試合のうち、決勝を含めた6試合もVARを担当していたことも、違和感を覚えずにはいられない。

 インファンティーノ会長が言うように、一度導入したVARを次大会以降のW杯で採用しないことは考えにくい。それだけに、正しいジャッジが増加したといういい側面だけでなく、FIFAはVARの運用方法についてしっかりと検証し、より明確化していく必要はあるだろう。

 その一方で、今大会から導入されたVAR以外の2つの新ルールについては、否定的な意見は出ていない。延長戦後に交代枠をもうひとつ増やして1試合計4名にしたことと、ベンチのコーチングスタッフとスタンドのアナリスト(分析担当)が通信機器(タブレット)を使って試合中にコミュニケーションをとれるようになり、ライブトラッキングデータなどを参考にして、コーチングが可能になったことだ(別会場の試合ライブ映像も視聴可能)。

 これら2つはゲームをよりアグレッシブなものとし、特に後者についてはよりスピーディかつ正確な戦術変更や選手交代などを可能にするというメリットがある。その影響かどうかはまだはっきりしないが、少なくとも今大会では試合中にシステム変更をするチームが明らかに増えたことは間違いなかった。

 いずれにしても、すでに定着したゴールラインテクノロジーをはじめ、VARや通信機器の使用などは、テクノロジーの進化とともに今後もサッカーとは切り離せないものとなりそうだ。

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