イニエスタがいなければ...。魔法使いが神戸に去ったバルセロナの寂寞 (2ページ目)

  • 山本孔一●文 text by Yamamoto Koichi 中島大介●写真 photo by Nakashima Daisuke

 そんななかで、エゴのない、味方を使う高いテクニックとパスで人々を楽しませたバルセロナのサッカーを体現し続けていたのがイニエスタだった。

 来季以降も、メッシはバルセロナで人々を魅了するプレーをしてくれるのは間違いない。だが、イニエスタが退団することで、流れるような、そして憎らしいほど強いバルセロナの美しいサッカーはもう二度と見られないのかもしれない。

「イニエスタがいなければ、メッシはバルセロナでのプレーに嫌気がさしていたかもしれない。イニエスタがいることで、バルサは障害となる可能性のあるものを乗り越えてきた。勘のよさ、技術、攻撃力。セニョール・イニエスタは頭脳的なプレーがサッカーの本質であることを証明した」

 バロンドールを主催するフランス・フットボール誌は、『ごめん、アンドレス』というタイトルのコラムのなかで、イニエスタのその周囲を活かすプレーを高く評価するのと同時に、世界最優秀選手の賞を贈らなかったことを謝罪した。

 イニエスタはメッシやクリスティアーノ・ロナウドのように、シーズン40点以上を獲ったことはない。2010~11シーズンの8得点がシーズン最高得点だ。そんな選手に対して、サッカー界の権威あるメディアが誌面で謝罪をしたことに、イニエスタの選手としての価値が垣間見える。

 22年前、イニエスタは故郷のフエンテアルビージャからプロ選手になることを夢見てバルセロナへ移住した。当初は涙を流す日々を過ごしていた少年は、世界的な大スターになった今でも、そのときの純粋なサッカーへの気持ちを変わらず持ち続けている。

 静寂に包まれた真夜中のカンプ・ノウ。イニエスタがどのような思いを駆け巡らせていたのはわからない。ただ、その魔法のようなプレーが日本でもうすぐ見られるのは確かだ。

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