イブラヒモビッチを虜にした
凄腕代理人の「交渉術」と「予知能力」

  • サイモン・クーパー●文 text by Simon Kuper  森田浩之●訳 translation by Morita Hiroyuki

【サイモン・クーパーのフットボール・オンライン】大物代理人ミノ・ライオラ物語(2)

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 フットボール界でも指折りのエージェント、ミノ・ライオラが自叙伝を書くなら(彼は何度も書こうとしたことがある)、タイトルは『交渉術』とすべきだろう。彼に言わせれば、契約交渉は「自分にとっての試合」だ。

 オランダ人の元選手ロディ・トゥーバンが書いた「ありがとう、ミノ」という文章に、印象的なエピソードがある。トゥーバンが1998年に、アヤックスからデ・フラーフスハップという小さなクラブへ移籍したときの話だ。

 ライオラとトゥーバンは、さえないモーテルに泊まっているデ・フラーフスハップの会長に会いに出かけた。まずライオラは自分が担当しているパベル・ネドベドがいかにすばらしい選手であるかを語った。いい話だったが、これは自分を偉く見せようというライオラの計算だった。

ユベントス時代のポール・ポグバとミノ・ライオラphoto by LaPresse/AFLOユベントス時代のポール・ポグバとミノ・ライオラphoto by LaPresse/AFLO それからデ・フラーフスハップの会長がトゥーバンにオファーする年俸を紙に書き留めた。「悪くない」と、トゥーバンは思った。アヤックスでもらっていた金額を超えていた。それに、デ・フラーフスハップは彼を欲しいと言ってくれている唯一のクラブなのだ。

 ところが、ここでライオラが大きな声を出した。「彼がアヤックスでいくらもらっているか知らないのですか? 話になりませんね。ロディ、帰るぞ。時間の無駄だ」

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