2014.10.22

政治的確信犯が試合を破壊した。悲しきユーロ2016予選の背景 

  • 木村元彦●取材・文 text by Kimura Yukihiko

 10月14日、ユーロ2016の予選セルビア対アルバニアの試合がセルビアホームのベオグラードで行なわれた。事件が起こったのは前半42分だった。ラジコン飛行機につるされた「大アルバニア主義」の旗がピッチ上に舞い降りて来たのである。セルビアのDFミトロビッチ(フライブルク/ドイツ)がこの旗を取るとアルバニア選手が妨害。乱闘となり、セルビア人サポーターが怒涛のようになだれ込んで来て没収試合となった。

選手や観客の乱闘で没収試合となったサッカー欧州選手権予選のセルビ ア対アルバニア戦。(写真提供:ロイター=共同)

 現段階ではUEFAの処分が待たれるところであるが、事件の起こった背景を考慮すれば、これをとてもただの挑発行為と見なすわけにはいかない。

 まず、国際試合の最中にプレーしている選手の手に届くところに「異物」を送り込んだこと。プラティニ(UEFA会長)の「爆弾だったらどうなっていたことか」という指摘は正しい。しかも関与した人物としてVIP席で逮捕されたのが、アルバニアのラマ首相の弟オルフィ・ラマであった(運営側はこの日、アルバニア人のサポーターは入場させていなかった)跳ね上がったフーリガンの行動ではなく、「政治家」による組織的な策動であった点が極めて悪質である。

 そして、旗がただの国旗ではなく、アルバニアの領土拡大、国境変更を意味する大アルバニア主義の旗であったということ。セルビア人にとってはこれ以上ない民族的侮辱行為である。1999年のNATO軍による空爆以降、セルビアはコソボ独立を米国を中心とした西欧社会に突き付けられ、恥辱にまみれて(承認こそしていないが)事実上手放した。米国はコソボにおける米軍基地確保とクロム鉱石の埋蔵量に目をつけ、それまでゲルバート米国特使自らが過激なテロリストと断定していたKLA(コソボ解放軍)に今度は地位を与え、一転利用して独立を後押ししたが、そこに住む少数民族の人権保障は担保されておらず、この建国はアルバニア単一民族国家化を意味した。すでにアルバニアという本国があるにも関わらず、もうひとつのアルバニア国家を認めてしまったことに等しい。現在、コソボに行けば独立国になったにも関わらず至る所で翻(ひるがえ)っている旗はコソボ国旗ではなく、隣国アルバニアの国旗と星条旗である。国連加盟国(193)の内、86カ国がまだコソボを承認していないのは国内に分離独立問題を抱えているという理由もあるが、矛盾を孕(はら)んだ人権問題も大きい。