バルセロナの新指揮官、マルティノ監督の「サッカー哲学」 (2ページ目)

  • 山本美智子●取材・文 text by Michiko Yamamoto photo by Rafa Huerta

 クライフが生みだし、グアルディオラとティト・ビラノバが熟成させてきたモデルそのものといってもいいだろう。スビサレタ強化担当ディレクターも、「バルサのモデルを崩さないことを条件に監督探しを行なった」と明言している。

 また、マルティノの就任が発表された際、彼がメッシと同じロサリオの出身であり、マルティノが「メッシとその家族が(自身の監督就任に)多少は影響したのだろう」と発言したことで、その因果関係が疑われたが、メッシ自身がそれを否定。クラブ側も、「メッシとその家族が、新監督の就任に関与した事実はない」と主張した。

 こういった不用意な発言は、バルサというビッグクラブでは、メディアに大きく採り上げられるものであり、マルティノは、早速ビッグクラブの監督としての洗礼を受けた格好だ。

 そして、誰もが気にしている「メッシとネイマールの共存」について聞かれたマルティノの回答は明快だった。「ふたりが一緒にプレイできないとすれば、それは監督の力量に不足があるからで、選手のせいではない」と言い切ったのである。

 マルティノ自身、スキルに長けたミッドフィルダーだったが、彼は「ピッチで活躍する選手が第一、監督はその後ろに控えているべきだ」と考えている。過去のインタビューでも、「監督業が脚光を浴びて、必要以上にもてはやされすぎている」と苦言を呈したことがあるほどだ。スター集団のバルサにおいて、その謙虚な姿勢も、この監督は成功すると思わせる根拠のひとつといっていいだろう。

 そうは言っても、ティト・ビラノバが病気治療に専念するため続投できなかったという事実が、いまだにクラブ全体に重くのしかかっている。アドリアーノは「ティトがいないのは変な気がする」と話し、マルティノの就任が決まるまで、イニエスタは「ティトがきっと戻ってくると信じている」と発言するなど、選手はビラノバ前監督の影を引きずっていた。

 だが、メッシが「ティトのことはみんなが気の毒だと思っているし、つらいことだが、僕らは強くなければならない」と話したように、このつらさはどこかで断ち切らなければならない。

 その点、目指すサッカーの方向性やスタイルが似ていて、欧州での指揮経験がないため、ほかの欧州クラブの色がついていないマルティノは、バルサにとって現時点で最善の選択かもしれない。

 また、今回の就任記者会見で、マルティノを紹介するビデオが流れた時に使われていた曲が印象的だった。

2 / 3

厳選ピックアップ

キーワード

このページのトップに戻る